2021年06月20日23時11分掲載  無料記事
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検証・メディア

マスメディアはG7の価値観を疑え  Bark at Illusions

 英国のコーンウォールで開催された今年のG7サミットは、米国のジョー・バイデン大統領が中心となって中国を念頭に民主主義国の結束を演出し、共同宣言で東シナ海や南シナ海、台湾、香港、中国の人権問題などに言及して中国を牽制した。共同宣言では中低所得国へのワクチンやインフラ支援を強化する方針も示されたが、これらも中国を意識してのものだ。あからさまな中国への対抗姿勢は世界の分断を招くことになると警鐘を鳴らすメディアも少数ながらあるものの(例:毎日、21/6/15)、ほとんどのマスメディアは米中の対立は「民主主義と専制主義の闘い」だと断言するバイデンの言葉を真に受けていて、民主主義や人権などの「共通の価値」を基盤に国際社会の課題に対処するというG7の理念を疑おうとしない。 
 
 しかしサミットに集まった7カ国の首脳が国際的な問題について何かを決定するということ自体、非民主的なことだ。サミットに参加している7カ国の人口は世界人口の1割程度であり、その他の9割が住む地域の代表は、決定から排除されている。国際社会が直面する課題について、国連がG7に何か決めるよう委任しているわけでもない。G7に集う首脳たちは、国際社会の問題を扱うために民主的に選出されたのではなく、その権限もないのだ。 
 
 またG7サミットは世界で最も裕福な国の政府の集まりで多様性がなく、国際社会が直面している多くの問題で、自国市民を含む、地球上に住む大多数の人々の意に反する行動を取っている。 
 日本のマスメディアはG7が対中国で結束を示すことができるかどうかにばかり注目していたけれども、世界人口の9割の人が住む地域では、中国と対峙することよりも、気候変動やパンデミックの問題を解決するための議論にもっと時間を割くべきだと考える人が多数派だったのではないだろうか。あるいは、気候変動と同じように人類にとっての最大の脅威の一つとなっている核兵器の廃絶に向けた議論が必要だと考えていたかもしれない。特に今年は、核兵器禁止条約が発効して初めてのサミットだった。 
 
 ところが、気候変動の問題では日本や米国の反対で石炭火力全廃の期限を明示することができないなど(POLITICO、21/6/13)、十分な対策を示すことができなかったし、核兵器廃絶については共同宣言に朝鮮とイランの核への言及があるだけで、国際法によって違法となった自分たちの核兵器については全く議論にならなかったようだ。核兵器の開発や保有、使用など核兵器に関わるあらゆる活動を禁じた核兵器禁止条約は、国連加盟国122か国の賛成で採択され、G7各国の市民を含む世界市民の大多数が支持しているが、G7の全ての政府は同条約に反対している。 
 
 パンデミックについては、100カ国以上の政府が支持している新型コロナウィルスワクチンの特許一時放棄について、G7は一致して支持を表明することができなかった。G7各国の市民の約7割が特許の放棄を支持しているというのに(アムネスティ・インターナショナル日本、21/5/13)。G7は10億回分に相当するワクチンの提供を約束したが、それだけではWHOがパンデミックを収束させるために必要と見積もる110億回分の1割に満たない。 
 
 ところで、ワクチンやインフラ支援など「G7が今回、大規模な途上国支援を打ち出すのは途上国への影響力を強める中国に対抗する意図がある」そうだ(「経済再生へ途上国支援 中国に対抗、ワクチンとインフラ」、毎日、21/6/13)。 
 
「この間、中国は途上国へのワクチン提供を積極的に進めたほか、巨大経済圏構想『一帯一路』を掲げ、中央・南アジアやアフリカ諸国のインフラ開発に対して巨額の資金支援を行ってきた。こうした状況に、バイデン政権は危機感を強めている……中国の影響力拡大阻止に本腰を入れ取り組む姿勢を示す考えだ」 
 
 もし本当なら、なんと不純で下劣な動機だろう。特にワクチンについては、国内の人口以上の回数分を囲い込み、人命よりも製薬会社の利益を優先してWTOで議論されているワクチン特許の一時放棄に反対するなど、中低所得国へのワクチン普及を妨害しておきながら、ワクチンを「公共財」と位置付けてワクチンを世界中に提供してきた中国の支援を「ワクチン外交」などと揶揄し、自国のワクチン接種に目途がついた後になってからようやく、「中国の影響力拡大阻止」のためにワクチン支援に動き出すというのだから。しかも、米国はワクチン提供で「見返りや政治的譲歩」を求めないとバイデンは公言するが、米国政府が敵視するベネズエラには米国が提供するワクチンが届くことはないようだ(Democracy Now、21/6/13)。 
 
 ワクチンでもインフラでも、支援するなら「対抗」ではなく、「協力」した方が効果的なのではないだろうか。中低所得国の支援に至るまで、同じ価値観を共有する仲間で結束して価値観の異なる国家と対峙するというやり方が、民主的な国家のすることだろうか。 
 中国の「一帯一路」構想については、中国が開発途上国に巨額の借金を負わせて「債務の罠」に陥れ、影響力を拡大しているとの批判があるが、開発途上国の債務は中国によるものばかりではない。また、世界銀行やIMFなどの融資の条件として、公営企業の民営化(私営化)や社会保障費の削減、国内消費農産物から輸出向け換金作物生産への転換などの構造調整プログラムを押し付ける新自由主義政策を主導して「南北格差」を拡大させ、開発途上国を構造的に低所得国に留めてきたのは、G7ではないか。バイデンが「中国の影響力拡大阻止に本腰を入れ」るのは、自分たちの覇権を守るためであって、中低所得国に暮らす庶民の生活を考えてのことではない。 
 
 G7は他国を批判できる程、民主主義や人権を尊重しているだろうか。米国が世界中で民主的に選ばれた政府の転覆を企ててきたことは、ここで改めて説明するまでもないだろう。その企てには米軍による直接の武力行使や現地の軍隊を利用したクーデタなどが含まれ、その過程でたくさんの市民が殺され、人権が踏みにじられてきた。米国の従属国であるG7の他のメンバー国も、そうした米国政府の企てを支援してきた共犯者だ。 
 
 また今年のサミット開催国の英国では、今もウィキリークスのジュリアン・アサンジが拘禁されている。アサンジは米国の戦争犯罪を公にした罪で米国政府に起訴されている。米国政府は英国政府に対してアサンジの米国送還を要求しているが、米国に送還されれば、アサンジは最長で175年の刑を受ける可能性がある。民主的な社会の証の一つである言論の自由は、米国でも英国でも、またG7の他の国でも、全ての人に対して認められているわけではない。 
 マスメディアはG7の「共通の価値」を疑うべきだ。 


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