2021年10月27日21時35分掲載  無料記事
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検証・メディア

人民新聞やウィキリークスへの言論弾圧は、マスメディアにとって「言及してはいけない」事実  Bark at Illusions

 今年のノーベル平和賞は、フィリピンの調査報道サイト・ラップラー共同創設者のマリア・レッサ氏と、ロシアの独立系新聞・ノーバヤ・ガゼータ編集長のドミトリー・ムラトフ氏が受賞することに決まった。それぞれの国における「表現の自由のための勇敢な戦い」が授賞理由で、2人は「民主主義と報道の自由がますます不利な状況に直面している世界」で報道の自由の「理想」のために闘っている「全てのジャーナリストの代表」なのだという。 
 
 マスメディアも、報道の自由が抑圧されているのはフィリピンやロシアに限ったことではなく、世界的に言論の自由が後退しているという問題意識の下に、このニュースを伝えているようだ。しかし、マスメディアがフィリピンとロシア以外でも報道の自由が脅かされていることを説明する際に挙げているのは、中国やアフガニスタン、サウジアラビアなど、一般的に強権国家と考えられている国家や非民主的国家などの例ばかりだ。 
香港の国家安全維持法違反容疑で逮捕された蘋果日報創業者の黎智英氏や、サウジアラビア王室の批判者でトルコのサウジ総領事館で殺害されたジャーナリストのジャマル・カショギ氏、それに軍事クーデタで権力を掌握したミャンマー政権による報道機関の弾圧や、タリバンの復権で報道の自由が脅かされているアフガニスタンの状況、等々。欧米の例としては、マルタのジャーナリストで、政治家の不正を追及していて爆殺されたダフネ・カルアナガリチア氏に言及しているものもあるが(例:朝日、21/10/9;毎日、21/10/9)、日本や米国については、国際NGOによる報道の自由調査で日本の順位が低下していることを指摘したり、 “異端” のドナルド・トランプ前米大統領の報道に対する姿勢や、ソーシャルメディアで広まる “フェイクニュース” の問題に言及するのがせいぜいで、権力に批判的な人民新聞への弾圧や、米国の戦争犯罪などを暴いたウィキリークスに対する弾圧など、日本や米国の言論弾圧に言及しているマスメディアは皆無だ。 
 
 人民新聞については “詐欺罪” の容疑で逮捕された当時の編集長・山田洋一氏に対する捜査の過程で行われた不当な家宅捜索に対する国賠訴訟の判決(全面棄却)が9月15日に出たばかりだし(人民、21/10/7)、ウィキリークスについては、米国の中央情報局(CIA)が同サイトの創設者で発行人のジュリアン・アサンジ氏の誘拐や暗殺を計画していたという報道(Yahoo! News、21/9/26)があった直後だった──いずれのニュースも日本のマスメディアは完全に無視しているけれども……。またアサンジ氏は、米国政府が “スパイ容疑” などで彼の身柄引き渡しを要求しているため、現在も英国の刑務所に拘禁されている。人民新聞とウィキリークスのケースは世界が「民主主義と報道の自由がますます不利な状況に直面している」ことを象徴する最もタイムリーな例と言えるだろう。 
しかし、全く言及がない。 
 
 マスメディアが人民新聞やウィキリークスに言及しないのは示唆的だ。 
 ジョージ・オーウェルは報道機関の検閲について述べた文書の中で、英国では検閲が「ほとんど自発的」に行われているので、「人気のない意見」や「不都合な事実」は「公式に禁止」するまでもないと述べ、その理由について、英国のほとんどの報道機関は「いくつかの重要な問題については不正直になるだけの十分な動機がある富裕層に所有」されていることや、英国には「正しい考え方」をする人々が「疑問を抱くことなく当然受け入れるものと想定されている正統派的慣行」があることを指摘し、「正統派的慣行」を体得した「正しい考え方」をする人々は、「特定の事実」については「言及してはいけない」という「暗黙の了解」があるということを理解しているので、異論は「驚くほど効果的に沈黙させられる」のだと説明している。 
 それは現在の日本の社会にも当てはまるのではないか。日本では権力者の不正を正面から批判するジャーナリストは稀で、多くのジャーナリストは「特定の事実」について「言及してはいけない」ということを十分にわきまえているのだろう。ということは、日本の権力者はジャーナリストを弾圧する必要も、それ程ないのかもしれない。 
 
 再びオーウェルの言葉を借りると、 
 
「サーカスの犬は調教師が鞭をならすと跳び上がるが、本当によく訓練された犬は、鞭なしでも宙返りする犬なのだ」 


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