2021年10月31日09時15分掲載  無料記事
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コラム

コロナと選挙  前代未聞の総選挙となる

  今日は総選挙の投票日だ。今回の選挙は今までと大きく違う。言うまでもなく、昨年来の新型コロナウイルスが選挙に影響を与えるだろうことは想像されるだろう。過去の、このような大きな出来事の後の選挙を顧みると、直近では2012年暮れの総選挙があった。この時は2011年の地震・津波・原発事故の翌年にあたり、与党・民主党が惨敗。「日本を取り戻す」をモットーに掲げた安倍総裁の自民党が政権に復帰することになった。 
 
  コロナ禍と東日本大震災で、選挙に対する影響力は違う質のモノがあるかもしれない。東日本大震災の場合はあまりにも巨大な自然のパワーと原発という人災が組み合わされ、あまりにも苛酷な現実を前に無力というしかなく、人々の心の空白に「日本を取り戻す」というメッセージが届いた。 
 
  では、今回はどうか。確かに新型コロナウイルスは自然に端を発するものだが、その処理の仕方でうまくいった国とそうでない国の違いが顕著に見えた。日本の死者はアメリカやフランスと比べると少なかったが、病院と医療体制が逼迫するなど、政府の対応が良かったとは言い難い。2012年の総選挙の時、安倍総裁が「悪夢のような」民主党政権という言葉で、東日本大震災に端を発する危機の責任をすべて民主党政権に押しつけるイメージ戦略が功を奏したのと、今回は主役が入れ替わりこそすれ、同じような状況が生まれている可能性がある。 
 
 とくにコロナ禍は人々の生活を大きく変えた。東日本大震災が大きな惨禍だったとしても、その被害が東北地方に集中していたのとは逆に、コロナ禍は日本全国に波及した。しかも、それは暮らしの質に対する視点を女性のみならず、男性にも与えた可能性が否定できない。たとえばテレワークで家で籠って仕事をする人の場合、食材や日用品の買い物や調理といった今まであまりやったことがなかったことを経験した人が少なくないだろう。また、その結果、家族や子供と接する時間を持った人も多いと思う。こうしたちょっとした日常の変化は選挙にどんな影響を与えるのだろうか。さらに、非正規雇用の恐ろしさを体験して震えるような思いを噛み締めた人も多かったと思う。 
 
  今回の総選挙に臨む与野党党首たちの討論会を記者クラブや放送局などいくつかのメディア主催のものでウォッチしてみると、今回の選挙では過去にない特徴がいくつかあった。その1つが授業料を下げるべきだ、という声が与野党からともに出たことだ。授業料が高くなる傾向は今に始まったことではなく、1980年代には顕著になっていたトレンドだ。しかし、今回、政党のリーダーたちが声を揃えて授業料について語った背後にはコロナ禍で学生たちが学業を中断したり、困難になったりした現実が色濃く反映しているように思う。授業料が高いという問題は、長い間、社会的格差を再生産するなど大きな政治問題だったにもかかわらず、大きな問題と認識されないまま、政治の優先順位は低く設定され続けてきたのだったが、コロナ禍で臨界点に達してしまったのである。さらに、授業料の問題は少子化の大きな原因にもなっているという構造も討論会で論じられた。このことは政治の潮流の大きな変化のように思われた。 
 
  社会は産業と生産力だけが大切なのでなく、暮らし全体の実態を厳しく見つめる必要がある、という視点が選挙に反映される可能性があると思う。与党・自民党もその傾向は察知し、素早く菅首相から生活重視のイメージのある岸田氏にバトンを渡した。そして、総裁選を放送局が大々的に報道することで、これが本当の総選挙であるかのような印象を創り出そうとしていた。しかし、新たに選出された岸田首相の閣僚には過去の政権のイメージが強すぎ、自民党のイメージ戦略が奏功したかどうかは結果を見るしかない。それが、今回の選挙が「結果が見えない」と言われるゆえんだろう。 


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