2021年12月05日00時51分掲載
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コラム
野党共闘の伸び悩み 3 「反知性主義」批判と知の1%対99%格差
野党共闘が10月の総選挙で伸び悩んだ原因について、私は労働者の二極化、社会の二極化が憲法の価値をすでに劣化させ、憲法のありがたみを感じる人々と感じない人々にわかれてしまったのではないだろうか、ということを書きました。今回は2011年にアメリカで始まった「ウォール街を占拠せよ」で浮上した富の格差、1%対99%の対立が、富だけでなく、知識や教養の世界にも対立軸を創り出し、教養や知識を持っている人々に対する眼差しも、世界の1%の富裕層に対する眼差しに近いものになっているのではないか、という仮説について書いてみます。つまり、インテリたちに対する眼差しが、尊敬から一転して、怒りの対象に転じているのではないでしょうか。安倍政権の国会運営等に対する反対運動が吹き荒れていた時、大学の教授たちは安倍政権を「反知性主義」として批判したものでした。
しかし、反知性主義に対して、反エリートの空気が世界に広がっていて、アメリカのトランプ支持者に限りません。日本でも、またフランスでも広がっています。それは右翼陣営からだけではなく、左派の支持者からも、たとえばヒラリー・クリントン候補に代表される、知識も富もステータスも持った左派の著名人、セレブ達に対する反発は強まっていました。彼らは一見、労働者や貧困層に寄り添うかのように見せて、それほどそうした人々に対する優しい政策は求めてこなかったのです。そして、知識人や教授の子弟がまた知識人や教授になる、というように、知の世界でも、富や資本と同様に寡占化、集中化が起きているのではないかと疑いの目で見る人々が増えています。学費がますます高額になり、年収の二極化とダブルになって、格差をダブルで生み出しているのです。
フランスの社会党の低迷、アメリカにおけるトランプ支持者の増加、日本における野党第一党の低迷の裏に、背後にいる識者たちに対するある不信の念、つまり、彼らも知を寡占する人々、すなわち1%の側に立っているのではないか、という思いがあるのではないでしょうか。アカデミーの世界でも、格差はあるはずです。学閥もあれば、コネもあります。大学院に進学して学者になるのを夢見ても、いざ社会に出ると、就職口もなく、焼身自殺をした、というニュースを見たこともあります。極右陣営はこうした庶民の怒りをうまく吸収して勢力を増しているように思います。
エリート批判みたいになってしまいましたが、知が独占されつつある傾向は大学の学費の高騰や、社会階層の固定化といったことと連動するテーマです。今どき、書籍代も値上がりしていますし、映画の入場料も安くはありません。大学だけでなく、その周辺にある知の施設への敷居も最低賃金で働いている労働者にはますます遠くなりつつあります。映画でも、演劇でも、ライブでも、昭和時代のように簡単にはいけません。新聞ですら高くて取れなくなっています。日本国憲法で保障された「健康で文化的な最低限度の生活」という線はどこにあるのでしょうか。憲法は改正されていませんが、労働者の二分化は、こうした点でもアクセスができない人々を多くつくり出してしまったと思います。知識と教養の独占も、富の独占と同じで、社会を根底から揺るがしているテーマだと私は思います。勇気を持った、素晴らしい知識人はたくさんいます。しかし、今のこの風潮は、そうした個々の人々を一気に押し流すくらい、大きな反エリート主義のうねりになっていると私は思います。
1つ思い出す風景があります。それは私が取材した「立ち上がる夜」という、広場に集まって様々なテーマで議論を戦わせたフランスの市民運動です。「立ち上がる夜」では共和国広場で、市民がオーケストラを速攻で結成して、生演奏をしていました。オーケストラという音楽の喜びを町の広場で演奏することで、みんなで楽しもうよ、という空気を醸しだしていました。反エリート主義を克服するために、何をすべきなのか、定かではありませんが、この数十年の傾向をもう一度、振り返ってみるべき時でしょう。
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