2021年12月31日20時41分掲載
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農と食
農仕舞い 大野和興
各地に百姓の友人がいるので、盆暮れには生産物をいろいろ送ってくれる。お返しは秩父の酒と豚肉の味噌漬け、それに自身の唯一の生産物である本をおまけにつける。
今年異変が起こった。みんな40年、50年の付き合いで、同じように年を取ってきた。その彼らが荷物の中に入れてくれる手紙で、「送れるのは今年が最後です」と書いてくる。岐阜の柿、紀州のミカン、高畠のブドウ、新潟のもち、三里塚の豚肉、みんなそうだ、コメだけはまだしばらくは年間通して買わないですむが、あとは軒並み今年限りになりそうだ。
10月に山形・上山市に農民詩人の木村迪夫さんを訪ねた。詩のほかにコメと果樹をつくる百姓だが、果樹はもうやめている。最後に残った20アールほどのコメも、今年の収穫で最後にするという。貧農の家に生まれ、土地を少しずつ増やして百姓として生きてきた。「やめることを決めて田んぼに立ったら涙が出てきてね」。
俳句の季語に「畑仕舞い」という言葉がある。秋が深まり、収穫を終えた畑の作物残渣や枯れた草を始末し、来年の春耕に備えるさまをいう。多くに仲間が人生の“農仕舞い”に入りつつある。木村さんは自身の田仕舞いの詩を朗読してくれた。
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