2022年01月02日15時01分掲載
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総選挙で「清廉」は通用するのか 大島新監督『香川1区』 笠原眞弓
大島新監督の前作『なぜ君は総理大臣になれないのか』は、大評判でしたが、ついに見る機会を逸していました。それなのに……と思いつつ、前作に頼らなくてもいい映画は単独で見てもいいはずです。
映画は、衆議院総選挙の日程が人々の口の端に上る2021年6月、小川淳也議員は、かつて50歳になったら政界を引退すると明言していたために迷いに迷い、続投を決心するところから始まります。
ライバルの平井卓也議員は、世襲議員で地元メディアを持ち、新規開設のデジタル庁の担当大臣と、磐石の条件で余裕で撮影班のカメラの前に立ちます。
ところが平井議員は暴言などで週刊誌沙汰に。さらに維新の立候補が判明し、小川議員は取り下げを頼みに会いに行き、それが裏目に出てしまいます。
公示日の第一声が、各人あまりに「それらしく」笑ってしまうのです。小川議員はあいさつの後「本人」という襷と幟をはためかして自転車を連ねての遊説に出発。今回は初めて選挙戦に参加した「娘」のタスキも登場。終盤「娘」の下に本人の名前が明記されたものに変っています。二人の娘は「自分個人としてここにいる」と、明瞭な自覚が見えます。
選挙事務所に張り出される応援の「為書き」の代わりに、自主応援部隊の女性たちによる手作りの清々しい青いハトの切り絵が壁を飾るなど、どの場面を切り取っても、さわやかな風の吹く小川陣営に対し、維新は神主さんのお祓いが登場です。そして“なんとなく”旧態依然の平井陣営。彼の街頭演説にカメラを向けると、絡んでくる選挙事務所のおじさん。期日前投票の出口で、本人の名前と共にだれに投票したかを紙に書かせて確認するのは、いいのでしょうか。カメラは、平井支持者に話を聞こうとしても応じてもらえず、やっと答えてもらえても、強い徹底匿名です。それの意味するところは、言わずもがなです。驚くというべきかさもありなんというような話も飛び出してくるのです。
選挙結果は、51:49で小川議員の勝利となり、辛うじて平井議員は比例復活になったのでした。
では、平井陣営がたびたび攻撃していた小川議員の映画による知名度アップが原因だったのでしょうか。そうとも言えますが、そうでないともいえると思うのです。もし先の映画が小川議員に対してマイナス要素が大きければ、逆作用をしたでしょう。ところが反対に、彼の人柄の素直さや今の政治家に欠けている清廉さを選挙民が知ることとなったのだと思います。
今の議員に欠けているもの、それは小川議員の持つ一直線に市民を思う心ではなかったのかと強く思ったのでした。
少し長めの映画なのに、長く感じないのは、選挙という縦軸のスリルだけではないと思うのです。
大島新監督156分
12/24[金]ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋にて先行公開、1/21[金]全国公開全国順次公開 (レイバーネットより加筆・転載)
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