2022年01月09日12時29分掲載
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文化
マルク・アレグレ監督「Zouzou」(ズーズー) 昨年、パンテオン入りしたジョゼフィン・ベーカー主演の映画
昨年、近代思想家のジャン=ジャンク・ルソー、科学者のキュリー夫妻や哲学者のベルクソンらフランスの「偉人」が納められているパンテオンに、黒人ダンサーで女優のジョセフィン・ベーカー(1906 - 1975)さんが納められたことが話題となりました。ベーカーさんと言えば腰蓑一つで、激しいリズムの熱狂的なダンスで知られていましたが、パンテオン入りした理由は対独レジスタンス活動やその他の人道的行動がフランス国家から評価されたのだと聞きます。
多くの人はなぜ今頃?と若干驚いているかもしれません。マクロン大統領の来年の大統領選挙を意識した人気取り、と解釈する人もいるようです。ともかく、ベーカーさんのパンテオン入りは黒人女性としては初ということで、普通に歓迎する人は多いようです。
ただ、ジョセフィン・ベーカーさんの偉大さは、レジスタンス活動などよりも、ダンスや演技そのものにあることは疑いようもありません。ジョセフィン・ベーカーさんの凄さが垣間見える映画が「Zouzou」(ズーズー)というタイトルの1934年の映画です。この映画は、日本では「はだかの女王」という邦題。現代の感覚で言えばこの題はいただけないでしょう。実際、彼女は肉体美をさらしてはいますが、全裸でもトップレスでもありません。共演の名優ジャン・ギャバンを圧倒する存在感のある主演として、その力強い感情の表出で胸を打ちます。
物語はシンプルです。サーカスの心優しい興行主に引き取られた二人の孤児は、一人が白人の少年で、一人が黒人の少女。この二人が大人になって、ベーカー演ずる黒人女性の方が、ギャバン演ずる白人男性に恋心を抱くようになります。しかし、男の方は彼女に兄弟姉妹としての愛情はあれど、恋心は外部の白人女性に抱く。ですから、失意の物語です。思いがかなわない女性の心情を、ベーカーさんはとびぬけた明るさと、落ち込んだ時の絶望と、心の両面を見事に表現しています。映画では人種的な面にはスポットを当てて描いてはいません。現代からすると、ストーリーには多少、強引さが感じられますが、見た方がベーカーさんの魅力にとらえられることは間違いありません。この1934年の映画が突出しているのは黒人女性の内面を、ベーカーさんが主役として見事に演じきったこと、そしてこの映画が興行的にも成功したということにあると私は思います。
■映画「Zouzou」(1934)から
https://www.youtube.com/watch?v=CxyLTc4AUgs
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