2022年06月01日12時19分掲載  無料記事
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21世紀の奴隷労働に支えられる日本の食—―タイの海で 『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』  笠原眞弓

 タイの海は青く、美しい。漁船に乗る漁師たちも逞しい。と言いたいのだが、なんか変である。漁港に現れたのは、強い意志をみなぎらせ、緊張した面持ちの女性、NGO労働権利推進ネットワーク(2004年に設立)のパティマ・タンプチャヤクルさんだ。彼女は「一人見つければ、その人からまた見つかる」と言いながら足早に歩いている。 
 
 そして、目当ての人に会う。彼は漁船に乗っても「給料をもらっていない」「休みもない」「休むと(休憩)、叩かれる」「家と連絡が取れない」「食事も不十分だ」と話す。なぜ逃げないのか? 
今は21世紀!耳を疑う話が展開する。奴隷がいたのは、いつのこと?そんな状態で5年、10年以上になる人もいる。信じられない光景が展開する。どうやって生きているのか?昔見たアメリカの奴隷の映画だって……と落ち着かない。 
 
 
 さらに彼の伝手で他の人に会い「チャンスは1回だけ、今すぐ船に乗りなさい」と、彼らを連れてそこを脱出する。パティマさんたちは、ドレイ労働者を見つけては、ほぼその場で救い出し、彼らの本国に連れ帰る運動をしている。彼らの行動をずうっと監視している人がいる。警察とマフィアとブローカーが手を組んでいるので、救出する方も命がけである。 
 
 救出は、まず彼らの供給国ミャンマーやラオス、カンボジアなどの部落を回り、情報を集めることから始める。カメラを持った外部の人が入っていくだけで緊張するような、集落だ。仲介人の口車に乗って、夢を求めていくのも当然だと思える。 
 こうして助けられたものの、問題はこれからだと思った。賃金が払われないのだから、二度と奴隷となって異国の海に行くことはないだろうが、今後の彼らの生活はどうなるのか。 
一応、彼らの不当労働期間の賃金の支払いの交渉もできるらしいが、そこにいたという証明するものなど、そろえる書類があまりに複雑で、あきらめる人も多いようだ。 
 
 しかし、少しずつひかりは見えてきて、被害者同士、自助グループを立ち上げて、支えあっていると解説にあった。タイは安い労働者が欲しいし、ミャンマー、ラオス、カンボジアなどから集めて来るが、現在のミャンマーは、国情不安定で国外に行きたい人もいるだろう。 
 彼らの働き方が改善されていくことを願うばかりだ。多分これが第1章で、これから様々な問題が明らかになっていくのだろう。 
 
 ところで、彼らの奴隷労働で獲れた海産物は、どこへ行くのか?タイの海産物の輸入国は、世界で2番目に多いのが日本。缶詰めなど加工品はもとより、養殖用の餌にも使われ、さまざまに加工される。猫用のペットフードの50%は、タイからの輸入だとか。このペットフード用魚の養殖の餌にもなっているという。 
 彼らの奴隷労働に支えられているかもしれない買ったばかりの非常用缶詰を見ながら、複雑な気持ちになる。 
 
監督:シャノン・サービス、ジェフリー・ウォルドロン 90分 
シアター・イメージフォーラムにて5月28日(土)より公開。その後全国順次公開 


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