2022年07月02日20時42分掲載
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アジア
ミャンマー東部州での国軍攻撃 集団的処罰の可能性 アムネスティが警告
国際人権団体アムネスティは今年3月、4月にミャンマー国軍の動向について調査を行った。うち2週間は、ミャンマーとタイの国境での調査だった。99人に聞き取りをし、そのうち数十人は国軍襲撃の目撃者や生存者、3人が国軍脱走者だった。証言に加え、衛星画像、火災データ、公開されている軍用機の飛行データ、民間人への武器の使用や負傷、家屋破壊などの人権侵害を示す写真やビデオ100点以上を分析した。アムネスティ国際ニュースによると、タイ国境沿いのミャンマーのカイン(カレン)州やカヤー州で武装勢力の家族や村に対して国軍による大規模な残虐行為が行なわれていることがアムネスティの調査でわかった。国軍は、カレン族とカレンニー族の住民を空と地上から攻撃し、また、拘束した人たちの拷問や殺害、略奪と家屋の放火などをしてきた。(大野和興
◆クーデター後急増する攻撃
アムネスティ国際ニュースは次のように報じているー。
タイ国境沿いのカイン州やカヤー州などの民族武装勢力は数十年にわたり、権利の拡大と自治権を求める闘争を続けてきた。2012年、国軍との間で結ばれた停戦協定が昨年2月のクーデターで崩壊する一方、新たな武装勢力も生まれた。そんな中で国軍は、市民を容赦なく攻撃してきた。
カイン州とカヤー州での軍事作戦は、昨年の軍事クーデターをきっかけに再燃し、昨年12月から今年3月までの3カ月で激化し、民間人数百人が死亡し、15万人以上が避難を余儀なくされている。
武装勢力やクーデター後の蜂起を支持しているとみられた市民が攻撃され、攻撃目標がある居住地域では住民にも攻撃を加えることもあった。民間人を狙った攻撃、集団的懲罰としての攻撃、民間人を巻き込んだ無差別攻撃は、国際人道法に違反し、戦争犯罪を構成する。
◆違法な攻撃
国軍は現在、住民が多い地域で威力を発揮する爆撃兵器を繰り返し使用している。昨年12月から今年3月にかけて、大砲や迫撃砲で住民を殺傷し、あるいは家屋、学校、医療施設などを破壊する攻撃が24件あったことが、アムネスティの調べでわかっている。
例えば、今年3月5日、カイン州の3つの村が砲撃を受け、夕食中の家族ら7人が犠牲になった。多くの住民が、戦闘機や戦闘ヘリによる攻撃は特に怖いと訴えた。空爆を受けないかと思うと恐怖で夜も眠れなかったり、地下壕や洞窟に避難したりしたという。
アムネスティの確認では、南部の村と国内避難民キャンプで今年1月から3月までの間に8回の空爆があった。これらの空爆で、家屋や宗教施設が破壊され、住民9人が死亡、少なくとも9人が負傷した。攻撃対象の地域では、武装勢力の戦闘員はほとんどいなかった。
◆超法規的殺人
民族的な理由や反クーデター活動支持の疑いがあるとして拘束された住民は、しばしば拷問されたり、行方不明にさせられたり、法の手続きを経ずに処刑されている。
家から食料や持ち物を持ち出すために意を決して避難場所から出た村人多数が、国軍に捕まり殺害された。
今年1月、カヤー州で行方がわからなくなった住民3人が、約2週間後おとし便所で腐乱死体で発見されることもあった。犠牲者家族による、服装と歯の状態から3人を特定した。3人の遺体を運ぼうとした時、国軍兵に発砲されたため、引き取ることができたのは1カ月後だったという。
国際社会から非難を浴びた大虐殺としては昨年12月24日、カヤー州の町で兵士が数台の車を止め、乗っていた少なくとも35人を殺害し、遺体を焼いた事件がある。遺体を検視した複数の医師によると、犠牲者の多くは縛られ、猿ぐつわをはめられ、撃たれるか刺されるかした傷痕があった。
また、国軍がタイとの国境沿いの川を渡って逃げようとする市民に発砲したという証言もあった。
◆略奪と焼き討ち
国軍には村や町を組織的に略奪し焼き討ちをしてきた過去があるが、今回もカイン州とカヤー州の村々で同様の行為を繰り返した。目撃した人たちは、「宝石、現金、車、家畜などが盗まれ、家や小屋などが燃やされた」と話した。
火災情報と衛星画像の検証で、カヤー州の複数の村でどのような焼き討ちにあったか、また、焼き討ちは1回か複数回あったかもわかった。さらに、今年2月と3月の国軍の侵攻を受けた村が次々と火災にあっていることも判明した。
昨年10月までカヤー州で作戦に参加してその後脱走した元兵士は、「兵士が略奪や放火をするのを目撃した。兵士はただ市民に恐怖心を植え付け、武装勢力への補給や物流を止めたいだけだ。奪えるものはすべて奪って後は火をつけていた」と語った。
一連の攻撃で、カヤー州の住民を含む15万人以上が避難民になった。村民がいなくなった村もあったし、この数カ月間で何度も避難を余儀なくされた人たちもいる。
人道支援は国軍の妨害が続いており、食料や医療不足に、避難民は耐え凌ぐしかない状況にある。支援団体の関係者は、「栄養失調になる村民が増える中、支援を必要とする人たちのところ行くのがますます難しくなっている」と嘆く。
東部で続く国軍による民間人に対する犯罪は、同様の人権侵害が罪に問われてこなかったこの数十年を反映している。
ASEANと国連加盟国を含む国際社会は、直ちに深刻化する国軍の問題に手を打つ必要がある。国連安全保障理事会は、ミャンマーに全面的武器禁輸措置を課し、また、同国の状況を国際刑事裁判所に付託すべきだ。
アムネスティ国際ニュース
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