2022年07月13日18時00分掲載
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沖縄/日米安保
「死者は沈黙の彼方に」 目取真俊インタビュー・テキスト紹介 堀川信一
2022年7月2日、目取真俊のインタビュー番組が、沖縄復帰50年シリーズの一環としてNHKで再放送されていたことを、放送後に知った。初放送は昨年8月29日。内容を知りたくて検索したところ、「電波ログテキストマイニング」というブログ〔1〕で、字幕表示部分がテキスト化されていた。ブログ作者に感謝しつつ、一気に読み終えた。
目取真俊(めどるま・しゅん)は1960年沖縄県今帰仁村 (なきじんそん)生まれ、97年「水滴」で芥川賞を受賞。沖縄の濃密な自然を舞台に戦争と占領、基地に蹂躙され続ける人々の過去と現在を描く数々の小説と鋭い時事評論を発表。辺野古の海でカヌーを漕ぎ行う、新基地抗議・阻止の記録をブログ「海鳴りの島から」に日々アップしている。
私が目取真俊を知ったのは、2016年4月に名護市の辺野古崎付近で、彼が新基地建設の状況を確認しているとき、米軍の憲兵隊に所属する沖縄人警備員に拘束され、その後、憲兵隊の事務所らしき建物の中で米兵監視のもと、約8時間にわたり拘束されたという報道だった。同年10月には、ヘリパッド建設が進められている東村高江で抗議行動をしている際、大阪府警から派遣された機動隊員に「こら、土人が」という言葉を投げつけられ、頭を叩かれ脇腹を殴られるという弾圧に遭う〔2〕。
報道は一過性で終わり、私は、すごい作家がいるものだな、という強い印象を持ったが、作品を読もうという気にまでは至らなかった。
ところが翌17年、辺見庸と目取真俊の対談『沖縄と国家』〔3〕を読み、沖縄への私の無関心、差別、偽善を思い知らされる。同書で、辺見は心情を吐露するかのように、目取真に語っている。
「…(あなたの作品世界からは、)眼前の課題に対して身体的にちゃんと向き合うかどうかということを常に突きつけられている気がする。傍観者たち、忘却者たちを断じて許さない。はっきり言って、ぐうの音も出ない…あなたの書くことの仮借のなさ、でしょうか…」〔4〕。
目取真俊の仮借ない言葉に衝かれ、私は彼の作品を読まなければと思った。
さて、「インターネット…で偉そうなことを言う(書く)だけで、実効性のある行動をしないと空しい」〔5〕、そして「自分は痛くも痒くもいない場にいるわけか。恥を知れ」〔6〕という作家の痛烈な言葉の矢を浴びながらも、インタビュー・テキストの
一部を紹介したい。
沖縄戦で死んだ人たち。死にゆく人たちを助けたくても助けられずに見捨てるしかなかった人たち、戦中と戦後に慰安婦として生きていくしかなかった人たち、多くが死んでしまった。かれら黙したままの死について語る。
★
死んだ人たちはですね
沈黙の彼方にしかいないわけですよね。
語ることなんか できないわけですよ。
だから その人の代弁するっていうのは
ものすごく傲慢なことなわけですよね。
誰しも代弁なんか できないわけですよ。
他人の痛みを 本当に痛むことは
できないわけですからね。
だから 我々ができるのは 小説という
想像力を武器にしたですね 表現形態で
少しでも やっぱり近づく努力ですよね。
手記を読んだり 証言を読んだり
そういった形で
学ぶこともできますけども
それだけじゃなくてですね
書かれてない向こうに何があったのか
ということをですね
知る努力というのが
やっぱり小説だと思いますし。
本当に じゃあ 死んでく瞬間
その人間の胸に何が去来したか
というのはですね
誰も 本当は表現できないわけですよ。
★
また、辺野古での新基地建設工事にかかわる、取材者の無自覚な質問に答える(おそらく、激越な怒りを抑えきれず)。
★
(取材者)
今 こういう状況になって こういう海を
見ていると どんなお気持ちに…?
どんなお気持ちと言いますけどね
誰が これ つくったと思います?
あなた方 日本人ですよ。
沖縄県民が
これ要望したんじゃないんですよ。
皆さん方 ヤマトンチュがですね
この現実つくってるんですよ。
それが この 棚上げしてですね
傍観者的な発言して聞きますけどね
この責任は
じゃあ 誰にありますかなんて話ですよ。
安倍政権
菅政権が強行したわけだけども
その政権 支えてきたのは
圧倒的多数の日本人なわけですよ。
大多数の日本人は
関心すら持たないわけですよ。
思いというのは
もう死んだら ないわけですよ。
死んだ人には
思いすら抱けないわけですよ。
思い 抱くのは
生きている我々だけですよね。
自分たちが 今 どうして
どういう行動をとるかがですね
彼らの思いをですね
一つ想像する きっかけになるわけですよ。
死んだ人の思いなんか 海底に
横たわってるわけないじゃないですか。
彼らは ものも言えなくて 沈黙の彼方に
消えてしまったわけだから。
生きて思いがあるんだったらですね
この船 みんな沈めますよ 海の底に。
★
ちなみに、作家はこのインタビューについて、次のように記している。
「しばらく前にNHKの『こころの時代』という番組に出た。沖縄戦について語るなかで昭和天皇の戦争責任についてもかなり話し、沖縄の基地問題を語るなかでは『天皇メッセージ』や象徴天皇制と憲法9条、沖縄への米軍基地集中の関係などをかなり話した。しかし、編集の段階で天皇に関する発言はすべてカットされていた。そうなるだろうと予想はしていたが、沖縄戦や敗戦後の米国の沖縄統治に対する昭和天皇の責任を問うことをタブーとしているのが、今のメディアの状況なのだ。『沖縄に心を寄せる』皇室の報道は、そのタブーの上に成り立っている」〔7〕。
今回、ブログ記事をいくつか読み直した。そのなかで、私がインタビュー番組を見逃した理由(わがアンテナ感度の低さは別として)の一端がみえた気がする。作家の商業的宣伝への潔癖すぎる拒絶のためか、ブログで自著新刊や講演、テレビ出演などについての「宣伝」が、まずなかったのだ。
「沖縄人が相手にしているのは、日本政府、米国政府という巨大な存在だ。簡単に勝てないのは分かりきったことだが、だからといって諦め、屈服すれば、惨めで卑屈な生き方を強いられる。辺野古新基地建設阻止のたたかいは、新たな軍事基地を造らせないだけでなく、沖縄人がこれからどう生き、この島をどう発展させていくかという、尊厳や主体性をかけたたたかいでもある。それはまた、自分たちの後の世代に基地の負債を残さないためのたたかいでもある。基地あるが故に、どれだけの犠牲がこの島で生み出されたか」[8〕。
彼にとって、ブログは尊厳や主体性をかけたたたかいの記録なのだ。また、生活を犠牲にして日々営々と抗議・阻止行動をしている人たちと自身を激励するためのものであり、政府の暴虐と差別を銘記し告発する、反撃するための場であると自らに律したのであろう。
そして、「沖縄に住んでいる人だけが当事者ではなくて、日米安保体制にのっかって生活している人すべてが当事者なわけですよ。みんな、基地問題に責任を負っているわけです。それを考えれば、辺野古へ来て座り込みするだけではなく、全国各地で安保に反対することはできるわけです。沖縄の基地問題の根幹は安保の問題なんですから、それに反対する運動をそれぞれの場で一所懸命にやればいい」〔9〕と、ヤマトンチューへ覚醒を求める場なのだ。
(注)
〔1〕「こころの時代〜宗教・人生〜『死者は沈黙の彼方(かなた)に 作家・目取真俊』[字]…の番組内容解析まとめ」 電波ログテキストマイニング 2021年8月29日
https://dnptxt.com/television-show/documentary-culture/post-10580/
〔2-1〕目取真俊『ヤンバルの深き森と海より』影書房 2020年1月30日 350〜367頁
〔2-2〕「海鳴りの島から」――多くの皆さんの支援と激励に感謝します 2016年4月3日
https://blog.goo.ne.jp/awamori777/d/20160403
〔2-3〕「海鳴りの島から」――「黙れ、こら、シナ人」「土人」、あまりにもひどい大阪府警機動隊の実態 2016年10月18日
https://blog.goo.ne.jp/awamori777/d/20161018
〔3〕辺見庸・目取真俊『沖縄と国家』角川新書 2017年8月10日
〔4〕『沖縄と国家』159〜160頁
〔5〕「海鳴りの島から」――本部港塩川区で抗議行動/車で居眠りと読書にふける沖縄防衛局員 2020年2月12日
https://blog.goo.ne.jp/awamori777/e/9237f92df567a91a51548b472171dd44
〔6〕「海鳴りの島から」――安和の琉球セメント新桟橋とゲート前で抗議行動 2020年3月7日
https://blog.goo.ne.jp/awamori777/e/a8f7094e896c36763988f36c9e8184d4
〔7〕「海鳴りの島から」――「沖縄復帰50周年記念式典」という茶番を前に、今日14日も辺野古新基地建設は強行されている 2022年5月14日
https://blog.goo.ne.jp/awamori777/e/740d634178150dcd0d114ea18606de6d
〔8〕「海鳴りの島から」――玉城知事も駆けつけ、辺野古ゲート前大行動を800人余で行う 2021年12月4日
https://blog.goo.ne.jp/awamori777/e/032f8739f0cf5ec8fa88c8ada15f5b61
〔9〕『沖縄と国家』74頁−−
(ほりかわしんいち、ベリタ編集委員会会員)
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