2022年08月03日18時36分掲載  無料記事
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検証・メディア

7月9日の朝刊見出しの一致ぶりについての検証は終わっていない 〜有事・選挙とメディア〜

  参院選挙投票日の2日前に起きた安倍首相の暗殺事件、その翌日、すなわち投票前日の朝刊の大新聞の紙面は横並びの見出しで、「旧統一教会」という名前はありませんでした。このことは、重要なことだと思いますので、これを忘却せず、必ず検証してほしいと思っています。このことが今後の「選挙運動期間中」の報道の基準を作ると考えるからです。もし、そこを不問にしてしまったなら、選挙運動期間中の報道は限りなく委縮し、民主主義にとって取り返しのつかない大きなダメージになる歴史的な契機だろうと思えるのです。 
 
  第二次安倍政権になって以来、選挙期間中の報道が委縮し、有権者・視聴者・読者は選挙を目前に控えながらも、候補者や政党について十分な情報がないまま、投票しなくてはならなくなっています。これは目前に断崖がありながら、目隠しで歩くことを強要されているのと同じです。日本の選挙は米国の大統領選などに比べると、一瞬のお祭りに過ぎません。1年近い選挙運動期間を通して、民意が形成され、候補者や政党がそれを政策に反映していくような契機がまったくといっていいほど不在です。そんな一瞬に近い選挙期間中に、さらにまた有権者と政治家のコミュニケーションである報道が委縮することは極めてダメージです。 
 
  7月8日に安倍首相が暗殺された時に、警察は旧統一教会の名前を記者たちに発表したと聞いています。だとすれば、なぜ7月9日のニュースで各社・各局が報道でそれについて触れなかったのか。幹部たちは報道が選挙に影響を与えたと指摘されること、すなわち作為の責任を問われるのを恐れたのかもしれませんが、報じなかった不作為による選挙への影響をむしろ問われるべきなのです。報じなかったことで、有権者は社会および政界に関する重要な情報を知りえないまま、選挙に臨まなくてはなりませんでした。民主主義に対して新聞やメディアの果たす役割は、正しい政治的選択ができるために必要な情報を国民に与えることにあったはずです。公平さを欠いたら電波停止をするとほのめかした高市早苗元総務大臣の言葉(※)の呪縛から解き放たれるべきなのです。もし、選挙に影響を与えることを恐れて事実を報じない、というならもはや媒体の自殺に他なりません。 
 
  そして、各新聞のあの横並びの見出しは戦時中の大本営発表の新聞を想起させましたし、何より主要メディアが一致してそれを受け入れる体制が完成したことが明確になった象徴的な瞬間でした。安倍政権時代に、有事に自治体やメディアが政府の統制を受けることを可能にする一連の有事法制(※※)が改憲なしのままに制定され、それがあのような形で顕在化したように私は感じました。事の本質を隠蔽し、視聴者・読者をミスリードしながら、政府の采配のもとに(あるいは政府への忖度のもとであれ)全報道機関が一致した行動を取る、そのリハーサルに思えたのです。今のままであれば、将来、戦争が始まれば報道はあのように画一的になって、政権に対して無批判の媒体になるであろうことを国民は直感的に理解したはずです。 
 
  今、旧統一教会に関する報道で一部の民放が健闘していますが、それはそれとしても、だから7月9日の朝刊の問題が解消され、ジャーナリズム魂が復活したという風に見るのは時期尚早です。7月11日におそらく想定上の「有事」が解除されたのであり、その意味では一番核のところは握られたままなのですから。このことをしつこく問い続けたいと思います。 
 
 
村上良太 
 
 
※高市早苗総務大臣の「放送法違反による電波停止命令を是認する発言」に抗議し、その撤回を求めると共に、政府に対し報道・表現の自由への干渉・介入を行わないよう求める会長声明(日弁連) 
https://www.toben.or.jp/message/seimei/post-425.html 
 
※旧統一教会と「関係アリ」国会議員リスト入手! 歴代政権の重要ポスト経験者が34人も(日刊ゲンダイ) 
https://www.nikkan-gendai.com/articles/image/life/308409/191217 
 
※※有事法制3法案の廃案を求める決議(日弁連) 
「日本放送協会(NHK)などを指定公共機関とし、これらに対し『必要な措置を実施する責務』を負わせ、内閣総理大臣が、対処措置を実施すべきことを指示し、実施されない時は自ら直接対処措置を実施することができるとすることは、政府が放送メディアを統制下に置くものであり、市民の知る権利、メディアの権力監視機能、報道の自由を侵害し、国民主権と民主主義の基盤を崩壊させる危険を有する。」 


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