2022年09月23日19時54分掲載  無料記事
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《いのちの安全が大前提/原発を批判・反対だけでは何も生まれない》 映画『原発をとめた裁判官 そして原発をとめる農家たち』を見て  笠原眞弓

 原発をとめた裁判長の樋口英明さんとは、日本有機農業研究会を通して存じ上げていたし、二本松有機農業研究会の農家の方々とは、原発の爆発以前から交流があり、爆発後に彼らはどうしているかとその時の農家のありのままを映像に撮り、2019年には、畑の上のエネルギー生産(太陽光発電)についても話を聞き、それぞれ『それでも種をまく』『それでも種をまく2019』という短い作品に仕上げていた縁もあって、この映画はとても楽しみにしていた。 
 
◆裁判官の使命は国民の命を守ること 
 
「環境省除去土壌等運搬車」という大きな布を巻きつけたトラック、道路を遮る蛇腹の柵やフレコンバックの積みあがった光景。何度見ても見慣れることのないフクシマから始まる。なんとも落ち着かない。 
 
 判決主文に「被告は大飯発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない。ひとたび深刻な事故が起きれば多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす事業にかかわる組織には、…安全性と高度の信頼性が求められて然るべき…」と書き出した樋口英明元裁判長は「裁判官は文系だから、分厚い原発の説明書や安全性の書類を読んでも、よく分からない」と笑うが「裁判官は国民の命を守ることが使命なのだから、今ある全ての原発は事故が起こらないという保証がない以上、稼働してはならない」と厳しい言葉が続く。 
 
 そして、東海第二原発の前田英子裁判長の避難計画を実行性がないとして再稼働を止めた判決は当然ということになると語る。 
自然エネルギーの発電コストの急激な低コスト化と発電量の拡大を示しながら、樋口さんが裁判にかかわっていたころは、地震の揺れの大きさを表す加速度(ガル)が通常の地震でもどれくらいあるか、よくわからなかったというのには驚く。樋口さんが調べ始めてから密に測定器が設置され、データとして使えるようになったとか。 
 
 もう一つ、あり得ないと思ったのは、原発の耐震性能の低さ。通常起きている名前の付くような地震は700ガル(伊豆半島)から1800ガル(熊本地震・北海道胆振東部)、東日本大震災は2933ガルだという。一般の住宅メーカーの耐震性能は3406ガルや5115ガルなのに対して原発は、620から1209ガルというグラフが画面いっぱいに現れた時、これでは怖くて原発なんて動かせないし、活断層の上に建っている原発なんて問題外だ!と強く思った。その後すぐに各原発のガル数が上がったのだが、何をしたかというと、パイプの補強などだという。確かにパイプが損傷すれば、冷却水が送れないなど危険だが、土台や原発本体の補強ではないという(このことは、上映後のフロアからの質問に答えたもの)。一体これでいいのだろうか。やっぱり、誰が何と言おうと「脱原発」なのだ。 
 
◇農家たちの試み 
 
 次に登場するのが二本松のソーラーパネルを使った営農型太陽光発電、所謂ソーラシェアリング。 
これは、山や森を崩して設置するメガソーラーとは違い、今ある畑の上に設置するので、地形や景観、地盤の安全性を著しく壊すことはない。 
 
 パネル自体も随分進化してパネル下面も発電できるようになり、発電効率が良くなっている。また、パネルで遮光されて農作物の生育に支障をきたすのではということも杞憂だったようで、かえって真夏の暑すぎる太陽をさえぎって、収量が増したとか。この涼しさを利用して、乳牛の飼育にも取り組んでいる。また思わぬ効果として、ぶどう棚の支柱としても使えたそうだ。 
福島での農産物ということで、みんなが心配する放射能の移行も、有機質の十分に入った土壌では吸収されにくいのか、すぐに基準値以下に下がったとか。 
 
 映画に出て来る二本松有機農業研究会では、まず若い世代を中心に実験的に始め、今は近藤恵さんを中心に営農型太陽光発電の普及とその農場を会社組織にして経営するとともに、後進の育成にも積極的だ。 
 そこには、子ども時代に父親に連れられて田植などに参加していた人が、農家になろうと避難先から戻って研修を受けている。その姿に希望を見たのだった。 
 
監督:小原浩靖 92分 
ポレポレ東中野10/7まで ほか順次上映。 
上映は延長されることもあるので確認を。 
https://saibancho-movie.com/ 


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