2022年11月18日09時56分掲載
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アジア
「異国に生きる ミャンマーのこどもたち」<3>祖国に誇りと希望を持てるように 押手敬夫
ミャンマーで毎日早朝に見られる光景は、数十人が連なって托鉢に向かう僧侶の姿である。僧侶はひたすら黙々と行進するが、目線は常に1メートル先を見て歩く。その理由は道に這い出た虫を踏まないためだと言う。
車の中に飛び込んできた蚊を、運転手は静かにキャッチし、窓を開けて空に放つ。これらの行為は、ミャンマー人の90%以上が信仰する上座部仏教の教えを忠実に守っているからこそのことである。
上座部仏教の僧侶には227の厳しい戒律があり、一般の在家信者にも五戒がある。その最初にあるのが殺生はしてはならないことであり、例えそれが虫や蚊であっても命あるものをむやみに奪うことは仏の教えで固く禁じられている。
こうした敬虔な上座部仏教徒が多いミャンマーで、昨年2月に起きた国軍クーデターにより同じ国民の命を無残に奪う残虐性は、どう考えても決して結びつくものではなく、いかなる理由も許されることはない。
高田馬場の路地裏の「ケヤキハウス」で学ぶミャンマーのこどもたちの瞳に、いま祖国の現状はいったいどのように映っているのだろうか。
彼らはまだ幼く、この現実を十分理解できているとは思えぬが、何れは必ず知ることになる。
その時、上座部仏教の教えと遠くかけ離れてしまった祖国の悲しい現実を、いったいどう受け止め嘆くのだろうか。
▽「日本人は民主化の戦いに関心を」
時計の針を再び1988年に戻そう。当時、ネウィンの長期軍事独裁政権に反対し、民主化を求める活動家として国軍の激しい弾圧、迫害から逃れるため、やむなく愛する祖国を捨て日本に難民としてやってきたチョウチョウソー氏夫妻。最近は髪にはすっかり白いものが目立ってきたが、33年が経った今でも日本で戦い続け、闘志はいささかも衰えていない。
彼は最近のミャンマー情勢についてこう語っている。「ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、日本のメディアがミャンマーのニュースを取り上げる機会が少なくなり、多くの日本人はミャンマー情勢が正常に戻ったかのように考えています。しかし現実にはミャンマーでは次のような状況が続いています。1.クーデターに国民が強く反対、2.若者の反発が意外に強い、3.PDF(国民防衛隊)と国軍とのゲリラ戦が続いている、4.国軍はPDFを支援している人々に圧力をかけている、5.経済危機の中、失業者が増え国民の生活は苦しくなっている、6.ヤンゴンを含め都会に犯罪が増加。ミャンマー国内で民主化のために戦っている人たちを孤立させないために、これからもミャンマー情勢に多くの関心を持ち続けてください」
世界的な物価高の中、「シュエガンゴの会」の運営も、またこどもたちの親の経済状況も決して楽なものではないが、それでも強い意志を持って教えるチョウチョウソー氏夫妻の熱意と両親や人々の善意で「シュエガンゴの寺小屋教育」はこれからも続く。日本という異国で暮らすミャンマーのこどもたちが祖国に誇りと希望を持ち、彼らに明るい未来が来ることを願ってやまない。
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