2022年11月26日13時30分掲載
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人権/反差別/司法
左翼の「革命」アレルギー 日本の野党第一党が政権交代を目指さない元凶
先日、私は初めて米国歌の歌詞をYouTubeの翻訳字幕で知りました。それまでメロディは腐るほど聞いていながら、歌詞については無知だったのです。米国歌の題名は「The Star-Spangled Banner(星条旗)」であり、歌詞を読む限り、独立戦争時の1775年から1783年まで8年かけで大英帝国軍と戦った時の記憶に基づいているようです(※実際には1814年の第二次独立戦争におけるボルティモアでの戦闘に基づく)
https://www.youtube.com/watch?v=30FOxaYyVg0
「おお、君は見えるだろうか。夜明けの薄明りの中、黄昏のきらめきに我々が何を誇らしげにたたえているのかを。その太い縞模様と輝く星が、危険に満ちた戦いの中でも城壁の上で勇ましく翻っているのを見た。砲弾の赤い光をまとい空中で破裂する中、我々の旗が一晩中戦い続けてきた証だ。おお、あの星条旗はまだたなびいているだろうか。自由の大地と、勇者(英米戦争で戦い続けてきたアメリカ人)の故郷の上で」(ウィキペディアの一部翻訳から)
アメリカの独立は、政治哲学者ハンナ・アレントの書籍をもとにすると世界で最も成功した「革命」でした。米国民は住民の自由を奪い、代表は求めず重税だけをかけて強権をふるった植民地の支配者から、戦って独立を勝ち取った経験を国歌の形で歌い継いでいます。フランス国歌である「ラ・マルセイエーズ」も戦闘が基調になっており、聞き手に自由への戦いに参加することを求める呼びかけのような歌になっています。これは市民革命を経た近代国家ゆえの国歌に思えました。フランス革命も特権階級から一方的に重税をかけられた99%の平民たちが、国民とは私たちだと武器を手に立ち上がった革命でした。メロディこそ違えど、その精神は驚くほどよく似ています。こうした国は、政治の失敗、政治の驕りを見ると、政権を交代させます。フランスでもアメリカでも政権交代は起きています。民衆が主権者だという意識が絵に描いた餅ではなく、本当にあります。
しかし、日本で政権交代がほとんど存在しない理由は、国歌を考えると、変わらないことを是とする価値観が基底にあるような気がします。革命と言っても、無血革命もあり、暴力革命ばかりではないにも関わらず、革命と言えばロシア革命やフランス革命のイメージが強く、結果的に「革命」は今日ではむしろ右翼や新自由主義者たちが好む言葉になっています。マクロン大統領のような新自由主義者も2017年の大統領選の時に出版した本のタイトルを「革命」としていました。革命という言葉の本質から最も遠いはずの安倍元首相も革命という言葉を政策のキーワードにしていました。革命という言葉を自分の側につける人々にはある種の勢いが生まれるのです。
一方、日本の左翼は、と言えば1969年から数年続いた内ゲバによる暴力事件や殺人事件が響き、「革命」アレルギーが根底に植え付けられています。革命と言えば、世の中とは切り離された世の中を知らない観念左翼のごっこ遊びみたいに思われていますし、中国やソ連のような独裁政権を生んだとんでもない災禍のイメージが強固です。しかし、こうした革命へのアレルギーは、日本人から政権交代への覇気すらも奪っているように思われます。ただ、皮肉な川柳を書いて自らを慰めるのみです。昭和時代の日本社会党が実質的には革命政党ではなく、単に改憲を阻止するために存在し、本質的には自民党の補完政党でしかなかったように、日本の政界では政権交代を好まない空気が支配してきました。野党第一党が政権交代を目指さない珍しい国が日本であり、その国民性は民族学的・社会学的な調査研究の対象になりえます。2017年に立憲民主党がかろうじて野党第一党になった直後に、枝野党首や取り巻き知識人たちによる「保守」キャンペーンが主流メディアやSNSで繰り返し行われましたが、これもこうしたナイーヴな政治文化を象徴するものです。エリートたちは歴史に失敗があることを認めたくありません。
実は「革命」という言葉は、フランスにおいても、レヴィ=ストロースの構造主義が広まって以後、左翼知識人の中にフランス革命を否定的に見る風潮が広がってしまったとあるフランスの歴史家から聞いたことがあります。さらにフランス革命の問題に焦点を当てたフランソワ・フュレのような歴史学者の影響や、シベリアの収容所や大量粛正を行ったスターリニズムの真実が1970年代に次々と明らかになってきたことなどで、「革命」と言えば本家フランスの左翼たちまでがっくり来るものになっていたらしいのです。そんなフランス人たちが革命を前向きの歴史として〜幻想ではなく、実際に人々が生きた今日も参照すべき歴史として見直される契機になったのが、2016年の「立ち上がる夜」という社会運動です。この運動で、長年政治をあきらめていた大衆が政治の場に戻ってきたのです。とはいえ、革命と言っても暴力革命ではまったくありません。多彩な視点を生かした平和な討論を行い、問題点を考え、社会問題を解決していく運動です。「立ち上がる夜」の参加者の中には、フランス革命を肯定しながらも、その暴力の面をよく理解した歴史家(※)も参加していたことを忘れてはいけません。
野党第一党の政権交代アレルギーを克服することが、日本国が近代民主制国家に入るためには大切です。実質的な一党独裁による政治の腐敗を克服しなくては経済も、文化も勢いを失い、国民の安全も守れません。私は何も自民党がなくなればよいなどとは思っていません。もし政権交代が起きたとすれば、自民党の存在は重要になるでしょう。民主政治を成り立たせるためのストラクチャーは権力の分立であるとともに、与野党の価値観に国民の価値観の違いを的確に反映した対立軸があり、与野党間で政権交代が起こり得ることにかかっていると思います。フランスや米国が革命を通して獲得したものこそ、民主主義のストラクチャーでした。今、日本国で求められているものこそ、この健全なストラクチャーを構築することだと思います。それは党や個々の政治家の利益をはるかに超越したものです。
村上良太
※ Sophie Wahnich
https://www.youtube.com/watch?v=dusR-b99J5U
ソフィー・ヴァ二シ(歴史家・人類学者)にはフランス革命に関する多数の著書があり、実際のアクチュアルな政治運動にも参加している。この動画は歴史学者・政治学者ピエール・ロザンヴァロンとの対話。フランス革命の歴史を参照しつつ、今日のフランスにおける大衆の政治運動について論じている。
■林芳正・新文科大臣とマンスフィールド研修 日本をアメリカ的に構造改革させた政治家と「美しい国」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201708022139183
■ハンナ・アレント著 「革命について」 〜アメリカ革命を考える〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201401201800171
■ジョン・ロック著 「統治二論」〜政治学屈指の古典〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201312221117340
■ジャン=ジャック・ルソー著「社会契約論」(中山元訳) 〜主権者とは誰か〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201401010114173
■トマス・ホッブズ著 「リヴァイアサン (国家論)」 〜人殺しはいけないのか?〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201312292346170
■モンテスキュー著「法の精神」 〜「権力分立」は日本でなぜ実現できないか〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201312260209124
■地域の子供に無料の作文教育を 子供の教育を変えたサンフランシスコの ”826 Valencia” , One-on-one tutoring can help students make great leaps in their writing skills and confidence.
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201702080540363
■私はなぜ刑務所の民営化と闘ってきたか 元受刑囚で「刑務所法律ニュース」のジャーナリストに聞く Interview : Alex Friedmann , Managing Editor of "Prison Legal News."
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201612081813454
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