2022年12月02日15時33分掲載  無料記事
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米国

トランプが去っても、新トランプが来る J・カラベル教授「トランプ主義は生き残る」再読

  共和党の上院リーダーであるミッチ・マコーネル議員と言えば、リベラル派から非情な共和党員と見られがちでしたが、そのマコーネル議員がトランプ元大統領は再選される可能性は極めて乏しい、という意味の発言を記者団に向けて行いました。これは先日、日刊ベリタでも書きましたレイシストで反ユダヤ主義の人物と会食したことが発覚したからです。その人物はホロコーストの存在自体を否定するネガショニストだったことから、トランプが2024年の大統領選の際に、一定の影響力があるユダヤ系の支持を得るのは難しくなったのです。トランプは即座にマコーネル議員に向けた切り返しの言葉を発したのですが、もはや勢いは失墜して、共和党系のメディアでも批判的論調が強まっています。 
 
  とはいえ、レイシストのトランプが政界を追われたとしても、これで問題が解決されたわけではありません。拙訳で恐縮ですが、アメリカの著名な社会学者ジェローム・カラベル教授の分析をぜひ未読の方には読んでいただきたいのです。「トランプ主義は生き残る」というタイトルです。これはカラベル教授が2020年の大統領選でバイデンが勝利した直後に書かれたテキストです。以下のリンクに全文が掲載されています。 
 
■ジェローム・カラベル(米社会学者)「トランプ主義は生き残る」 〜アメリカの民主党と共和党の支持層の逆転現象〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202105090128010 
 
  ここで、部分的に私なりの現在の視点での注釈をつけますと、カラベル教授は、トランプ主義は現代アメリカの(そして日本やフランスの)構造的問題であると明快に述べています。 
 
 「トランプ主義は政治的、経済的かつ文化的なエリートたちへの世界的なポピュリストの反乱の一部であり、グローバリゼーションや工業の空洞化によって苦しんでいる人々に最も支持されている。メジャーな政党によって真の問題が無視されるか、過小評価されている時に、右派のポピュリスト運動は栄える傾向を持つと、ジョン・ジュディスは書いた。まさにトランプ主義を可能にしたものはそのような不作為だったのである」 
 
  ここで「不作為」とある現象を、日本の状況に当てはめれば、非正規雇用を当たり前にして、労働者を使い捨てにしても経営者が心を痛めることがない社会を作ってしまったことです。昭和時代の経営者の中には「資本論」を読んでいたエリートも少なくなく、彼らは革命を起こさせないために、資本家として格差の改善や福利厚生に自主的に取り組んでいたのでした。そういうエートスがバブル全盛期からバブル崩壊と冷戦終結後に日本から一掃されてしまいました。特に小泉首相以後は顕著です。限りないほどに可能な限り労賃や経費を節約することが経営者の美徳となってしまいました。合理化のためには労働者間の差別やヒエラルキーも原則的に容認する…そうした状態が、世論の二極化を招き、ヘイト発言が大量にネット空間に放出される土壌になったのだと思います。日本におけるエリート階層の思想的・存在的な変質がそこに介在していたのですが、それは米国でも同様だったのです。 
 
  「意外なことに、米国で最も貧しい下院選挙区の地域群では2000年以後、共和党支持者が増えている。それらの地域では民主党よりも共和党に投票する可能性の方がはるかに高い。一方、全米で最も豊かな50地域のうち44地域で〜最もリッチな10地区ではすべて〜今では民主党議員が選出されている。民主党と共和党支持者における、この階層の逆転現象はドナルド・トランプがいなくなってもトランプ主義を再び生み出す肥沃な土壌となる。したがって民主党が弱い人々や取り残された人々を放置しておくなら、彼らの多くはますます共和党に傾斜していくだろう。共和党は彼らにすぐに使えるスケープゴートを与えるのだ。移民や、黒人、外国人、そしてその定義には問題のあるパワフルな『エリート』である」 
 
  この問題は、日本の社会党の解体と、現在の立憲民主党が与党に接近する姿勢に明瞭です。左翼エリートは所詮、自分たちの利益のことしか頭にない、と庶民が思えば、彼らに本質的には過酷な経済政策を取っているネオリベラル&レイシストのトランプのような歯に衣着せぬエリート批判を行う政治家を支持して溜飲を下げるようになるのです。このことはカラベル教授が指摘するように、構造的な問題であるがゆえに、トランプという政治家が去ったとしても、その空席を埋める別の政治家の台頭を招いてしまいます。 
 
  では、新トランプの台頭をどうやって阻止するか。カラベル教授は、このコロナ禍でさらに拡大した貧富の格差を是正する措置を政治家が大胆に行うことしかない、としています。 
 
 「トランプ主義の復活に対して、先手を打って封じるためには、バイデンは大胆かつ毅然と行動して、自分の立ち位置が過去40年の間に共和党と同様に民主党によっても進められてきた新自由主義政策によって不利益を被った多くのアメリカ人の側であることを示さなくてはなるまい。つまり、バイデンは長年、彼の立ち位置だった穏健な中道的立場から別れる必要がある。状況が劇的に変わったこと、民主党内の進歩的な勢力が活気づいたこと、さらにバイデンの順応性がそれを可能にするのだ。 
 その転換とはどのようなことか? 劇的な〜しかも政治的な人気も持ちえる〜戦略は、このパンデミックの際に莫大な利益を上げている者たちに第二次大戦中のような重税を課すことだろう。また、それ以上に必要なことは、長い間必要とされてきた包括的な救援策によって、パンデミックの景気低迷で最も打撃を受けた人々(とりわけ低賃金労働者、失業者、小規模事業者である)を支えることであり、巨大企業へのテコ入れとは異なる。もう1つ別の重要なステップは、今しも住まいから追われかかっている賃貸住宅の住人や家を持つ人々を保護するための法案を通すことだ」 
 
  この提言は日本でもまったく同様の重みをもつと私は思います。政治を変えるためには、私たち自身の政治に対する意識を新しくする必要があります。 
 
 
 
村上良太 
 
 
■「パンデミックで悪化した階級間の壁 〜フランスにおける新型コロナ感染症対策の自宅閉じこもり違反者の報道から〜 その1」 ソフィー・ビュニク 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202208061311386 
 
■「パンデミックで悪化した階級間の壁 〜フランスにおける新型コロナ感染症対策の自宅閉じこもり違反者の報道から〜 その2」 ソフィー・ビュニク 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202208061349026 
 
■「Democratic Debacle 民主党の敗北」The defeat of Hillary Clinton was a consequence of a political crisis with roots extending back to 1964. ヒラリー・クリントンの敗北の根っこは1964年に遡る ジェローム・カラベル(社会学) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202002290302266 
 
■「大いなる幻影:流動性、不平等とアメリカンドリームについて」ジェローム・カラベル(カリフォルニア大学バークレイ校 名誉教授)”Grand Illusion: Mobility, Inequality, and the American Dream” By Jerome Karabel 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201702181404256 
 
■アメリカの警察による殺人  ジェローム・カラベル(カリフォルニア大学バークレイ校 名誉教授) “Police Killings Surpass the Worst Years of Lynching, Capital Punishment, and a Movement Responds ” By Jerome Karabel 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201702191613380 
 
■フランスの野党共闘 PS(社会党)とLFI(服従しないフランス) オランド元大統領ら社会党の重鎮らがメランションとは絶対組めないと現社会党党首に圧力 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202204302304236 


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