2023年02月28日20時43分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202302282043182
核・原子力
【たんぽぽ舎発】「GX法案」の閣議決定に抗議する 福島第一原発事故からわずか12年、原発推進に急カーブ 山崎久隆
東電福島第一原発事故から12年が経とうとしているいま、岸田文雄政権が原発推進へと大転換を図ろうとしている。そのための束ね法案「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」(以下、GX法案)を2月28日に閣議決定した。
◎断じて認められない閣議決定
原発を最大限利活用するために、原子力基本法、電気事業法、原子炉等規制法、再生可能エネルギー促進法、原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施及び廃炉の推進に関する法律(旧「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律」から変更)、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法の5本の改正を一つの改正法案にまとめた「束ね法案」である。
一つ一つの論点が分かりにくく、例えば再エネ特措法には賛成でも原子炉等規制法には反対といった対応ができない。
こうしたまとめ法案では、議論はほとんと深まらず、一括審議、一括採決で数の暴力で押し切ってくる。これを果たして「わかりやすく説明」などできるだろうか。もとよりそんなことは微塵も思っていないことだけは良く分かる。
◎本来必要な対策がないGX法
GX法案には原子力を除くと具体性は乏しい。
例えば昨年発生した東電管内の電力ひっ迫騒ぎは、電力改革の失敗が大きな原因であり、原発はほとんど関係なかった。今後発生する可能性のある東西の電力需給バランスの欠陥に伴う電力ひっ迫を解消するには、何はともあれ東西の連携を強化し、例えば1000万キロワットほど連携能力を構築すれば問題はなくなる。
当面は、ピンポイントで東電と中部電力の間の連携を強化すれば達成できるのだが、現在の計画のままだと2027年に300万キロワット規模に拡張できるだけである。
それこそ国費を投じて速やかに建設し、その費用を電気料金から回収すれば良いだけのことだ。しかしGX法案にはそうした具体的な対策はない。
◎原発の危険性だけが具体化する
そして法案の本命は、原発の再稼働促進と更なる運転期間延長だ。現在の40年+20年でも十分危険なのに、さらに「長期運転停止期間」なる概念を作り上げ、それを足して運転期間を引き延ばすという。
一例を挙げる。
東海第二原発は震災の日に止まった。辛うじて過酷事故にはならなかったが、津波により一部の海水ポンプが浸水したことから、もっと高い津波、例えば福島第一原発に襲来した規模のものが襲っていたら全電源喪失にもなりかねなかった。
その原発は、2018年11月27日で運転開始から40年経っていた。ところが運転延長20年を規制委が許可したため、現時点では2038年11月27日まで運転可能になっている。
しかし安全対策工事などは未だ完成していないだけでなく、地元の6市村とは運転の合意はないうえ、14市町村が策定することになっている原子力防災計画は9自治体で策定されていない。
このような原発を動かすことはできない。そのまま2038年を過ぎれば廃炉になる。
ところがここで新たな「長期運転停止期間」を追加するとしたら、あと11年以上も運転期間が延びる。今も動いていないので、日々伸びている。運転期間が確定しないのである。
今後再稼働をしたら、その段階から27年は運転可能だと考えられるのだ。
老朽原発を使い倒すことが、いかに危険なことか。
安全を犠牲にしても原発を動かす、これのどこが「(福島)事故への反省と教訓を一時も忘れず」(GX実現に向けた基本方針より)などと言えるのか。
◎安全を最優先するには廃炉しかない
そもそも、運転期間を40年と制限したのは原発の安全規制を最優先するためだった。そこに20年の延長を認めてしまったことが、安全低下に繋がるとして厳しい批判が規制委に集まった。
震災前も原発の運転はおおむね60年を限度としてきた。しかし40年目にさしかかった福島第一原発1号機がメルトダウンし爆発した。
その後の新規制基準により、これまで24基が廃炉になった。
延長申請をしても通らないと考えたか、対策工事に莫大な費用がかかりすぎるため断念したのか、おそらく両方だと思われる。しかし一定の割は果たし、危険な老朽炉を廃炉にすることができた。
しかし4基の原発が運転延長申請をして、全てが許可されている。
これが安全規制を侵食している。
これに加えて更に不定期に運転期間延長が可能になるとしたら、規制をしていることにはならないのである。
法案は廃案にするべきである
原発の再稼働だけでなく、再処理工場の稼働も改めて推進するとしている。
さらに高レベル放射性廃棄物処分についても、新たな仕組みで自治体に押しつける方法を見いだそうとしている。
これらを強権的に進めようとする姿勢には、強く反対する。
◎ 規制と推進が分離されず、一体化されようとしている。
規制委員会では、これまで5人の委員が一致することが前提で様々な決定がされてきたが、運転延長に規制委が関与しないとの方針には石渡明委員が反対を表明したが、多数決(4対1)で押し切った。
現在では規制庁のトップ3人が経産省から異動してきていた。
また、昨年7月には委員会ではなく規制庁の役人が経産省側と打ち合わせという名の意見交換と実務面のすりあわせが密かに行われていた。
これらは規制委側に問題とされることもなく、そのまま新・新規制基準の策定会合が現在行われている。
このような推進側に取り込まれた規制委は、存在価値さえ失っている。このような体制で危険な原発を止めることなどできようもない。
直ちに法案を廃案とするべきである。
(たんぽぽ舎共同代表)
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。