2023年04月03日18時16分掲載  無料記事
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欧州

メローニ政権の本性暴かれる〜チャオ!イタリア通信 サトウ・ノリコ

2月25日の未明から26日の朝にかけて、カラブリア州クロトーネ県クトロ町の沿岸で難民を乗せた船が難破し、67名が死亡するという事故がおこった。その中には、1名の乳児と12名の子どもたちが含まれる。死亡者は、3月21日の報道で91名、そのうち未成年者は35名となっている。この船は難破した日から4日前にトルコを出発した。難民は、アフガニスタン、イラン、パキスタン、シリアなどから来ている。 
 
2月26日早朝4時半に2名の国家警察官の船が難破した後に、知らせを受けて現場にかけつけたのが最初だ。その後、地元の漁師や救急隊員、沿岸警備隊などが次々とかけつけて救助にあたった。 
その後、3月2日にはマッタレッラ大統領が生存者が運ばれたクロトーネ市にある病院や犠牲者を入れた棺桶を安置する体育館を訪れた。犠牲者の家族たちにも声をかけたりする大統領の姿と対照的なのは、首相を含む現内閣の面々である。 
 
3月9日、クトロの町役場で行われたメローニ内閣の記者会見。約300人の記者が集まったという。クトロの住民も集まり、さながらスターがやってくるような状況だった。 
まず、口を切ったのは首相のジョルジャ・メローニ氏(極右とも言われる「イタリアの同胞」の党首)だが、事故が起こった日を24日と間違える。また、犠牲者やその家族に対する言葉があるかと思いきや、難民を送り出す密輸業者を攻撃する論理を延々と説く。そして、最後にはイタリアに不法に入国する、密輸業者に多額のお金を支払う、海を渡るという危険を冒す、こういうことは不利なだけだと発言した。 
 
記者会見の間、誰かが発言しているときに、他の閣僚が携帯電話をいじっくたりするなど、犠牲者に対する弔意の欠片も見られなかった。さらにメローニ首相は、FRONTEXという欧州国境沿岸警備機関から、この船についての報告はなかったと言っていたのが、25日午後10時半ごろに報告があったと言い直している。ただ、メローニ首相は、報告が遅かったことに加え、この船が航海するのに困難な状況にあるという報告がなかったと主張する。地元の新聞記者が約30年間この仕事をしているが、こんな難破事故はなかったと前置きし、なぜこういう事故が起こったのかという質問に対しても、状況説明は全くなかった。 
逆に、この事故が起こったのは、現内閣が何もしたくないから起こったのだとでも言いたいのか、と記者たちに怒りをぶつけるメローニ首相。記者たちからは、財政国家警察の船が難民たちを助けに行こうとしたが、波が荒く行くことができなかったと言うと、メローニ首相はそれは事故の後のことだと言い張る(財政国家警察は密輸などの犯罪を取り締まる組織だが、沿岸警備隊とは違い、海上救助の装備はない)。 
 
記者たちからは、メローニ首相の状況認識が違うとの発言が続々出て、会見は少し混乱する。さらに、記者たちからの難民を誰も迎えに行かなかったからこういうことが起きたのでは、という質問にも何も答えず、会見は終わる。 
記者会見の後、記者たちが外で待っている遺族に会わないのかと質問すると、メローニ首相は遺族が滞在するためにホテルを用意したし、会見は終わったから帰ると応答。遺体が安置されている体育館に行くでもなく、生存者のいる病院に行くでもなく。しかもメローニ氏は車から手を振って帰っていった。スター気取りである。 
  
この記者会見で私が驚いたことは、イタリア海域で起こったことに対して、イタリアの首相が事実をきちんと把握してないことである。 
良識あるジャーナリストたちの間からは、こうした難民に対して冷淡な閣僚たちの態度に批判が起こった。また、レプッブリカ紙のフィリッポ・チェッカレッリ氏はこの批判に加えて、メローニ内閣がこの記者会見をうまく組織できなかったことも批判している。 
 
この記者会見で、何を遺族たちに話したかったのか、政治家として何をイタリア市民に見せたかったのか、まったく伝わらずに終わってしまったということ。 
この会見の後、メローニ首相は遺族たちをローマの首相官邸に招待したが、遺族代表の一人、アフガニスタン人のアリダッド・シッリ氏は「遺族の多くはすでにドイツやベルギー、オーストリアに帰ってしまった。メローニ首相の招待は、意味がない」と発言していた。 
この事故から約1か月後、3月31日には32名の生存者たちが移民の手続きをするためにドイツのハンブルクへと旅立った。32名の生存者は、アフガニスタン人28名、シリア人2名、イラン人1名、ソマリア人1名である。 


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