2023年04月24日14時11分掲載  無料記事
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クルドの伝承音楽を通して知る弾圧される民の想い― 映画「地図になき、故郷からの声」を観る 笠原眞弓

 誘われて中島夏樹監督のクルドの人々の映画を観る。今年の2月6日に発生したトルコ・シリア大地震支援上映会だった。クルド人は自分たちの国を持たず、トルコなどに居住している。この映画は、そのクルド人がトルコ政府から言語も奪われた中で長年歌い継がれているクルド語の歌を軸に彼らのこれまでと、現在、そしてこれからをひも解いていくもの。 
 
 歌い継ぐ人を「デングベジュ」と呼ぶ。彼らは「語り部」のようでもあり、琵琶法師のようでもある。幼いときに死別した母親が「デングベジュ」で、残されたカセットテープが唯一母の思い出という人は、いつしか「デングベジュ」になって村人たちに歌い聞かせるようになっている。 
 
 もともと遊牧民であるクルド人は、トルコ国内では、100年にもわたり近隣列国に武力によって弾圧されている。クルド語が禁止され、これらの歌さえも自由に歌えない。トルコ語が強制されていく中で、次第にクルド語が押しやられていく。 
 幼いころ、トルコ兵に急襲され、慌てて土に埋めた母親のクルド語で歌うカセットテープは、いまだに出てこない。もう40年も経つが、息子らはまだあきらめずに必ず探し出すという。 
 
 「歌」という形で口承されていく言語、その「言語文化」が強奪されていくことを想像するうちに、日本人も同じことをしてきたと思い至る。思わず目を閉じてアイヌの、沖縄の、朝鮮半島の人々の心の内を想像し、忸怩たる思いが広がる。 
 上映後のトークでは、日本にいるクルドの人が、質問に答えて生活の現状や地震被害、社会体制などを話してくれる。その最後に、語調を強くして今国会で成立させようとしている入管法の改悪に反対してほしいと、訴えた。 
 
 これまで、明治の開国以来外国にしてきた不寛容の総仕上げのようなこの入管法法改正案は、自分たち日本市民を世界からバカにさせるための政府の総仕上げだとさえ思っている私は、彼らに心から同調した。 
 販売していたパンフレット(写真右)は、充実していて、クルドの尊厳さえも伝わるものだった。チャンスがあったら、ぜひ見てほしい映画であり、読んでほしいパンフレットだ。 


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