2023年04月27日17時52分掲載
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21世紀の植民地主義 〜「21世紀の初頭から世界的に退行」〜 その7
昨年、河出書房新社から出版されたエドガール・モラン著『百歳の哲学者が語る人生のこと』(翻訳:澤田直)は、社会学者モランの遺言とも読める中身が詰まった一冊です。モランは世界の複雑さについて語り、なかなか簡単に未来予測はたてられないと率直につづっています。また、ナチズムやスターリニズムに対する無知や見通しの甘さから予測を誤った自己の経験についても語っています。しかし、そのうえで、モランは現代の危機について、こんな風につづっています。
「最後に、欧州をはじめ世界中で、議会制を装う権威主義的政治制度が形成され、とりわけ中国の新全体主義が、電子監視体制によって打ち立てられたことは、二十一世紀の初頭から世界的に退行が起こっていることを証言しています。
私の経験の最も大きな教訓の1つは、野蛮さは常に戻ってくる可能性があるということです。歴史的に獲得された進歩で逆行することがないものなどけっしてありません」
モランはフランスでは有名な社会学者であり、フランス国立科学研究センター(CNRS)で研究していました。日本でも1970年代あたりは翻訳が多数出ています。本書もまたフランスでベストセラーになりました。モランのこの書で印象深いのが「歴史上獲得されたもので、不可逆なものは何もない」と繰り返し、語っていることです。もしそうであるなら、植民地主義が1960年代に終焉した、というような認識は、間違っていますし、また、江戸時代のような身分制社会に戻る可能性もあるのです。モランは今世紀初頭から、世界は退行現象に襲われていると指摘しています。これは地球温暖化という物理的現象ではありませんが、人間の精神・モラルが退行し、民主主義や平等といった20世紀に獲得した価値が失われていく局面に転じているとも読めます。現在はまだ「民主主義」という建前を標榜しているので、あまり表面化していませんが、議会制民主主義が先進国で終焉に向かいつつあります。
議会制民主主義終焉の要因の1つが、自由貿易協定の協定案作成を密室化して、多国籍企業に都合の良いような内容にする、ということがあります。このプロセスをなるだけ国会の場から見えないようにするということが欧州でも、米国でも、日本でも、中国でも一般的です。この傾向と付随して、多国籍企業が利益を自国の外に移転し、国税を逃れるようになったことです。これらのことは金融界の変化が起爆剤になっていたことも見逃せません。そして金融界は破綻が起きると、公費投入で救済されてきました。こうした民間企業が国を利用して、利益を独占する体制に変化しているのが今世紀です。このことが国会の形骸化と結びついています。この状況が、私には宗主国が植民地から搾取していることに似て見えるのです。
2010年代に起きた様々なオキュパイ(占拠)運動は、それに対する異議申し立てでしたが、退行現象の広がりに対して、なかなか効果を持ち得ていません。こうした中で、私は7回にわたって、日本の特権階層が日本を植民地化し、日本人を隷属させる、という仮説を書いてきました。現在はまだその過程であり、先行きはわかりませんし、杞憂に終わってくれればそれに越したことはありません。しかし、モランが「予期せぬ事態を予期せよ」と覚書でメモしているように、人間の歴史は事前には予測不可能です。
ただ、今日起きている退行現象が何によるのか、その原因を探り、解決を見出すことが先決でしょう。そのためにも、いろいろ仮説を作り、検証していく姿勢が必要ではないかと私には思えます。そして、その際、重要な資料となるのが、日本人が20世紀にアジアで植民地を作った時の歴史であることは間違いありません。おそらく、その経験は形を変えても、本質は未来につながって行くものと私は思います。
■21世紀の植民地主義 〜朝鮮植民地化と同じことを日本国民に〜 その6
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■21世紀の植民地主義 〜日本国民の上に君臨する「高天原族」〜 その5
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