2023年06月21日04時47分掲載
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文化
ニューウェーブ歴史映画論 『朝鮮総督府』と『台湾総督府』
昨日、ニューウェーブの戦争映画あるいは歴史映画が今世紀になって欧米で生まれてきていることを書きました。それらの作品は、通常の一人の主人公の目線で葛藤を克服するドラマツルギーではなく、史実に基づくとともに複数の、あるいは多数の登場人物と視点を併存させつつ1つの出来事の全貌を描こうとするものだと書きました。ドイツ映画の『ヒトラー最期の12日』とか『ヴァンゼー会議』あるいは米映画の『硫黄島からの手紙』などです。実は、今日、歴史学会でも文学の世界でも歴史学が大きな変化を起こしており、歴史と文学、ジャーナリズムと文学の境界領域を進む斬新な小説や映画などの作品がフランスなどで続々と作られつつあります。小倉孝誠著『歴史をどう語るか』(法政大学出版局)にはそのことが触れられています。今日の歴史学が非常に面白く、刺激に満ちた世界であることが理解できます。
この刺激を日本人が受けるならば、たとえば『台湾総督府』とか、『朝鮮総督府』のドラマなども作れるだろうと思います。つまり、そこで何が起きていたのか。どんな人々が出入りしていたのか。それらの組織は植民地支配をどう行ってきたのか?という関心に向き合うものです。これらの映画が作られたほうが良い、と私が考える理由は、その実態を当の日本人がまったくと言ってよいほど理解できていないであろうことにあります。そして、この歴史は今日の政界と直結しているであろうことを想像します。あえて書けば、私たちの現在の日本の政治への無関心さと、過去の植民地支配の歴史への無関心さには、正の相関関係があるのではないかと思っています。
過去の歴史映画というのは、往々にある主人公の葛藤と克服を描くもので、そこには描ける世界の限界が視野狭窄的につきまといました。それよりももっと全体的に、そこで何が起きていたのか?とか、それは何だったのか?という全貌に関する知的な問いに応えられる作品こそが今日求められているのだと思います。そして、それは舞台となったそれらの国々だけでなく、また日本人だけでなく、世界の人々に説得力を持つものでなくてはなりません。そういう風に考えれば、新しい歴史劇の潜在需要は世界的に高まっているのです。
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