2023年07月07日23時54分掲載
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コラム
「アパルトヘイトは合法だった」 皆、歴史の審判を受ける
フランスでは移民の子弟である17歳のナヘルという名前の若者が交通違反をし、その取締りにあたった警察官に射殺されるという事件がありました。警察官がこの若者を撃ち殺す必然性がなかったことが映像で広まり、全国的に大きな怒りを巻き起こし、その暴動から逮捕者数千人という事態となりました。そして、そんな最中に私は1枚のメッセージをSNSで目にしました。
「アパルトヘイトは合法だった。ホロコーストは合法だった。奴隷制は合法だった。植民地支配は合法だった。合法性というものは、権力者のものであり、正義とは異なる」
フランス語でつづられた文言はこういうものでした。今回、折しも日本では入管制度の改悪案が制定されようとしているのですが、法律が正義だとは限らない、という先ほどのメッセージと響きあっていると思われます。
人類の歴史を顧みると、キリスト教の原点であるイエスは犯罪者として十字架にかけられたのですし、犯罪者どころか死刑に値する重罪犯だったのです。地動説を提唱した科学者たちも、中世の時代は火あぶりにされる危険がありました。当時で言えば史上最悪の重罪犯に他なりません。韓国でかつて済州島で右翼政権の虐殺があった時も密航して日本を訪れた人々がいましたが、生きるためにはそうせざるを得ないという実情がありました。それを前にして、法律を守れ、と言っても刑法でいうところの「期待可能性」がありません。生きるために法律を犯さないといけない事態というものは洋の東西を問わず、歴史の中で数々存在します。それは、法律を制定する人間たちが愚かであるか、想像力が不足しているのです。
逆に言えば、合法的なことをしたとしても、歴史の見地から、後の時代に犯罪者となる事例があるのです。先述のSNSのメッセージには、「ホロコーストは合法だった」と書かれています。イスラエルで絞首刑になった元ナチスのアイヒマンも、ナチスの時代はユダヤ人を強制収容所に移送することは合法だったのです。しかし、それはナチ政権が異常だったのです。一時、勢力があると言っても、10年、20年後は凋落している、そんなことは多々あります。1933年に独裁者となり、千年続く帝国を築くとうたったヒトラーは1945年に自殺して果てました。わずか12年の栄華でした。ですから、ナチスのように徒党を組むことが大切なのでなく、大切なことは自分自身で考えなくてはならないはずです。
これらは何を意味するかと言えば、共同体で生きる以上、皆、法律を尊ぶ必要はあります。それを無視することはできません。しかし、法律が人類の歴史から見て不正義であると思われる場合もあります。そんな時、法律を守った人々が後に責任を問われる事態があることを意味するのです。私は日本人は権力に従順で、法律違反を非常に恐れていると思います。私自身もそうです。しかし、その法律が本当に正義なのか、ということは、法律を作っている議員たちの人間的な資質次第であることを忘れないようにしたいと思っています。現在の政権の質を見極めることが重要です。
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