2023年07月09日13時18分掲載  無料記事
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コラム

「アパルトヘイトは合法だった」 皆、歴史の審判を受ける その2 米国という宗教

  前回、フランス語で書かれたあるメッセージがSNSで回っていたことを書きました。そのメッセージとは次のような文言です。 
 
 「アパルトヘイトは合法だった。ホロコーストは合法だった。奴隷制は合法だった。植民地支配は合法だった。合法性というものは、権力者のものであり、正義とは異なる」 
 
  これは様々な視点から読むことができると思います。1つの読み方は、国家は無謬ではない、ということでしょう。国家は間違いを犯してしまう。歴史を振り返れば間違いありません。1つの時代が狂気にとらわれていた時代すらあります。それでも、それを後の時代にきちんと事実を調べて責任を追及し、誤りを誤りだったと述べることができる国家があれば、一方でそれができないままずるずると誤りを継続する国家もあります。 
 
  今この言葉を最も痛切に受け止めるべき国家の1つは米国ではないでしょうか。米国は第二次大戦で枢軸国だったナチスや日本に勝利し、民主主義を牽引してきた国家ですが、その一方で戦争と暴力をやめられなくなり、ベトナムを含むインドシナ半島から中南米あるいはアフガニスタンを含む中東まで、様々な地域で戦争の仕掛け人となり、多くの悲惨を創り出してきた誤りだらけの戦犯国家と言って過言ではありません。戦争の理由すら存在しなかったイラク戦争を引き起こしながら、当時の大統領は刑務所に入ったこともありません。そして、その米大統領に従い、アフガニスタンやイラクに介入した日本の当時の首相も何の責任も取っていません。 
 
  日本が正義とは無縁の軍事介入に追随するようになった背景には、戦後、戦勝国で超大国の米国に追随すれば何の問題もない、という風に考えた外務官僚たちの甘い世界認識が存在していました。その一人が外交官だった岡崎久彦氏でしょう。私は岡崎氏が翻訳したキッシンジャー著『外交』を愛読したことがありますので、その当時、岡崎氏がアングロサクソンについていけば間違いはない、と言った趣旨のことを述べられていたのを記憶しています。その記憶が強烈だったのは、キッシンジャーが『外交』で述べたクールな政治認識や状況判断の思考とは岡崎氏の思考が根本的に異なる思考だったからです。キッシンジャーの認識は、彼が生まれたドイツを含む19世紀ヨーロッパのバランス・オブ・パワーでした。しかし、米国にはこれとは反対に、世界の超大国として警察官的にふるまおうという外交思考があり、これは第一次大戦後に顕著になったとキッシンジャーは述べています。そして、後者はどちらかと言えば民主党政権に強い考え方です。米国に盲従する、という日本国家はこのような両極端に揺れる今日の米国の外交スタンスのいずれの場合でも何が何でも米国についていく、ということを意味しているのです。 
 
  キッシンジャーのバランス・オブ・パワー外交であれば、当然ながら地政学的な時々刻々とした状況を正確かつ主体的に読み解いていく努力が欠かせません。それは米国(アングロサクソン)に追随したら間違いはない、というような粗雑な信仰とは根底から異なるものです。仮にキッシンジャーとは異なる外交的な思考であったとしても、主体的な外交の放棄は国民の安全や財産を危険にさらしかねません。というのも、米国の国益と日本の国益とは根本的にことなっているからです。仮に、正義のために共同行動を行う、というのであれば正義の定義をその時々で確認する努力が欠かせません。そこではたとえばイラク戦争の責任問題は回避できないものです。正義=米国という前提に無批判に乗っかることは、非常に危険な思考です。私は決して反米というスタンスではないのですが、米国を無謬と仮定してしまうと、大きな間違いだと思います。そして、米国が犯した誤りが将来も永久に訴追されないと考えるのも甘いと思います。それは米国教という宗教的思考です。誤解を生むかもしれませんが私は米文化に影響されましたし、好きな国でもありますが、米国教徒には金輪際なりたくありません。 
 
  しかし、実は日本の外務省には、今日に至るまで外から見る限り、岡崎氏的な思考が根強く支配し続け、主体的な外交を築く知的努力も責任感も欠けているように思えるのです。それはまさに戦前・戦時中の大本営にすべてを委ねた権威主義国家あるいは宗教原理主義国家の精神が継続しているように思われるのです。安倍首相が北方領土を返してもらえなかった背景にも、日本の外務省の思考の粗雑さが失敗の根底にあったのではないでしょうか。そういうことを考えた時、今の岸田政権の米国への盲従ぶりは、後世から歴史の審判を受けるであろうことは確実だと思われるのです。 


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