2023年08月06日18時48分掲載  無料記事
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コラム

軍産複合体とマスメディア  戦争のスポンサーにもなるのだろうか。

  『21世紀の資本』という映画の評を書いた時、日本のマスメディアが政治権力と癒着し、「マスメディア=政治権力」という結合の形で軍産複合体に組み込まれたという私なりの見立て(仮説)を書きました。格差が拡大しているのにほぼ一貫して自民党政権が交代なく続く根底にはマスメディアが応援団=広報機関になっているからだ、というものです。民衆はそれ以外に政治や経済がどうなっているのか、知る手がかりがこれまであまりなかったのでした。マスメディアは政府に反対する政党などの意見も紹介しますが、最終的には「どっちもどっち」みたいな締めにして、民衆を宙ぶらりんのままにして、むしろ民衆を投票から遠ざけているのではないかと思っています。フランスでも聞いた言葉ですが、「もうオルタナティブはないんだ」=「この道しかない」と思わせる役目にマスメディアが転じたように思われるのです。 
 
  では、軍産複合体と言えば軍需産業という意味で、戦闘機や戦車、機関銃みたいなもののメーカーに思えるでしょうが、私はもっと広範な産業が連なっているのではないかと仮説を立てています。それは今日の兵器には様々な備品が組み入れられ、民生と軍用との境目が曖昧になりつつあるのでは、ということなのです。そのことは大学での軍事研究を政府が促していることや、日本学術会議を政府が統制しようとしていることとも通底します。そればかりでなく、米国がイラクやアフガニスタンで「戦後」に行ってきた事業=ビジネスというのは戦闘だけでなく、インフラ整備から教育や医療、民生まで様々な復興特需が考えられます。日米同盟と集団的自衛権の行使に日本政府や財界が前のめり、ということは戦争による軍需特需だけでなく、戦後の長期的な復興需要に参画できることを意味します。戦後行われてきた日本国憲法の解釈を一転することで事実上、日本の存立危機や「民主化」という大義、さらに「米国との同盟 (集団的自衛権)」といった要件が伴えば、外国で戦争できることが安倍政権時代の安保法制の強行採決で組み込まれてしまいました。戦地で貴重な資源が採掘できればなお理想的というわけです。これは低成長の現代において財界人に莫大な旨味のある沃野に映っているのではないでしょうか。とはいえ、その事業は国民の税金という形で降りかかる部分が大きく、米国を見たらわかりますが、軍需産業は儲かりますが、兵士を長期間派遣した分、米政府はイラク戦争後に財政難に至っています。いったい戦争までして利益を上げたいのだろうか?普通ならそう思ってしまいますが、資本主義の極端な形である「史的システムとしての資本主義」になると、金を儲けるために金を投資するシステムで、利益を上げることが至上命題になっているため、利益を上げた経営者は正しい、と見なされるようになっていきます。そこから戦争も日常的なビジネスの要素に組み込まれていきます。 
 
  こうした意味で、単に重厚長大型の軍需産業だけでなく、普通の民生用の商品を作ってきた産業も、いろんな形で軍需産業に関与し、巻き込まれていくとしたら? 自動車メーカー、アパレル産業、医療機器、ゼネコン、IT産業、航空宇宙産業、エネルギー産業、ロボットメーカー、素材産業、食品産業、家電産業などなど。米国では「war profiteering」という言葉がありますが、戦争で大きな利益を上げる企業があります。広告代理店を通じて、それらの産業界の広告発注の形で、マスメディアにも民生と軍需の間のグレイゾーンが拡大していき、無自覚なうちにも軍産複合体にメディアが組み込まれ、自己がそこから利益を得て社員の生活の基盤をなす。そのような形で軍産複合体にマスメディアが組み込まれていくということを私は想像しています。過去の歴史を見れば、戦争の中から様々な新技術が生まれたことも確かであり、税金で行われる戦争に絡むことは大きな技術革新の機会にも映っているかもしれません。たとえば空飛ぶ自動車というものも「災害地」に有効とうたわれていますが、戦地でも使えるでしょう。バリケードやがれきの上を飛び越えていけるからです。その意味で戦争に参加できれば、少子高齢化の日本だけでなく、戦争によってこじ開けた大きな市場に直接アクセスできるのです。また戦争は商品やサービスの国際見本市です。こうした意味で、軍産複合体に国の経済がはまってしまうと、そこから抜け出すのは難しく、景気を下げないように、米国のように戦争をしょっちゅうやる国になってしまうかもしれません。そして東京五輪の時のように、マスメディアが戦争のスポンサー※になるかもしれないのです。このことは明らかに日本国憲法に反することであり、だからこそ、今、政財界で改憲運動が高まっているのだと私は考えます。 
 
  映画版『21世紀の資本』の中で、経済学者のトマ・ピケティは現在は第一次大戦前夜に似てきたと述べていました。そして、その先に18世紀、フランス革命以前の本質的な格差社会が待ち受けているかもしれない、と警鐘を鳴らしています。 
 
 
※マーティン・ファクラーNYタイムズ元支局長が語る――【特集・東京五輪】「新聞社が五輪スポンサー」は米国ではあり得ない! 
https://www.zaiten.co.jp/article/2021/03/post-86.html 
 
 
 
村上良太 
 
 
 
■アレッサンドロ・バリッコ著「イリアス〜トロイで戦った英雄たちの物語〜」 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201111081648082 
 
■「戦争の美しさ」を語る物語 〜感動と昂揚の戦争物語は戦後一貫した売れ筋商品〜 そして再び戦争は始まる 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201403020350370 
 
■「21世紀の資本」の著者トマ・ピケティが左派の野党共闘を歓迎 ルモンドの報道 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202205080012560 
 
■長島昭久著『「活米」という流儀 〜外交・安全保障のリアリズム〜』 民主党・長島議員の外交・防衛政策と安倍政権の外交・防衛政策は極めて近い 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508242151411 
 
■選挙について 死に票をうまないために 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201410070003572 
 
■選挙の問題点 〜民意をもっと反映する選挙制度へ〜小選挙区制の見直し、会期末に全法案に対する国民投票(チェック制度)、若者の政治参加 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201312070313106 


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