2023年08月12日15時35分掲載
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コラム
斎藤憐作『上海バンスキング』と日中戦争
時代が完全に右傾化したということは、右傾化をもはや誰も意識しなくなり、それが新しいスタンダードになったかのように感じられることだと思います。斎藤憐作の和製ミュージカル『上海バンスキング』が上演されたのは1979年で、六本木のオンシアター自由劇場であったとネットで知りました。このミュージカルは戦前、上海に渡ってジャズをやっていた日本の音楽家たちをモデルにしており、ジャズをベースにした音楽の魅力に加えて、吉田日出子その他、多彩な俳優たちの演技の力も加味して、ロングランとなりました。しかし、その内容は、長期化する日中戦争という波にもまれ、日本と中国の間で右往左往しながら、ジャズという自由の境地を求めた人々の人生が描かれるという意味で、重いものを含んでもいます。つまり、テーマの重厚さと俳優たちと音楽の軽やかさやユーモアが協奏曲のように響きあい、このミュージカルに独特の味わいを与えていたのを思い出します。
日中戦争と言えば、私にとっては完全な昔の歴史だったはずが、今日、再び政財界で戦争の機運が盛り上がってきているのは驚くばかりです。『上海バンスキング』には、私の記憶では次のようなセリフがありました。上海で暮らすジャズミュージシャンたちのたまり場に彼らの友人である日本の軍人が訪ねてくる。ジャズを愛していたその軍人にも戦争の現実が重くのしかかっている。そして、この軍人は、確か私の記憶では盧溝橋事件について短く語るのです。盧溝橋事件は日本の軍部が仕掛けたという説がありますが、この軍人は中国側にも戦争拡大を望む勢力があったら・・・と含みを持たせたセリフを吐くのです。つまり、中国側にも日中戦争を拡大させることで、政治の主導権を握るとともに日本を奥地まで引き込んで持久戦で戦い抜こうと考える勢力があったら・・・それを思うと背筋が寒くなった、というのが、この軍人の本音です。
この軍人のセリフは忘れ難いものがあります。今、日本の政治家たちが台湾に行き、しきりに中国との戦争を辞さない、と言ったことを述べているらしいのですが、もし中国側にもそれを望む勢力がいたら?という想像なのです。中国は日本のような島国と異なり、内陸まで広大な大地があり、臨海部が占領されても、その奥地まで制圧するには長大な補給網がなくては成功できません。実際に日中戦争では日本軍は敗れてしまいました。しかし、その教訓を今もって理解できない政治家がいるとは驚きです。今、中国は不動産バブル崩壊の淵にあるという説があり、国民の意識を反らすために台湾併合よりもむしろ、日中戦争を望む勢力がいるかもしれないのです。戦争が起きたら、どちらかが屈服するまで長期化する可能性があります。今、始まっているような軍事費増強のための増税どころではすみません。安保法制が発動されれば、国の必要に応じて人権も制約されうることが法律に書き込まれています。このような時代が1発の銃弾で始まり、長期化してしまう可能性があるのです。日本は平和憲法を持っており、日本の領土が攻撃されたのでない限り、紛争解決は外交で平和に行うことが義務付けられているのです。その意味では民生を大きなリスクにさらす安保法制の撤廃が必要であり、平和を維持する最大限の努力が求められています。
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