2023年09月09日11時40分掲載  無料記事
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アフリカ

「国連西サハラ特使が初めて占領地西サハラへ!」【西サハラ最新情報】  平田伊都子

 2021年11月に西サハラ国連事務総長個人特使に任命されたイタリア人スタファン・デ・ミストラ氏は、皮肉屋の国連事務総長報道官のフランス人ステファンに<我らが友人>と敬われながら、イタリア人記者のステファナに援護されながら、1年の任期を何の成果も挙げずさらに1年再任され、その2年めも終えようとしています。 
 そんな矢先、同性のよしみもあってみんなに庇われながら、スタファン氏は初めてモロッコ占領地・西サハラに入ることができました。 
 
①約2年間、全く訪問を断られてきた国連特使が、やっとモロッコ占領地・西サハラへ: 
 デ・ミストラ西サハラ国連事務総長個人特使は、これまでにたった2回、西サハラ関係 
地域を訪問した。しかも彼が訪れたのは、西サハラ難民キャンプと隣国アルジェリアとモーリタニアとモロッコの首都ラバトだけで、肝心のモロッコ占領地・西サハラには入っていなかった。他の国連特使が足繁く当該地に通って、和平交渉の努力を続けているのに比べ、あまりに少ないというか、怠慢というか、何様の積りかと失望させられていた。 
 因みに、1回目の難民キャンプ訪問は2022年1月12日と13日で、2回目の訪問は2022年9月3日と4日だった。2回ともモロッコ占領地・西サハラへの訪問をモロッコに申請していたのだろうが、モロッコは首都ラバトでブリタ外務大臣が対応しただけだった。 
 通常、国連特使の誰もが記者会見を開き、経過報告をする。国連特使は国連職員で、当然、世界の人々による分担金で雇われているのだから、特権意識でのけっぞっていられては困る。世界のしもべであるべきだ。が、デ・ミストラ氏は、記者の前にお出ましにはならない。「デ・ミストラはどこにいるのだ?」と、再三、国連担当記者が聞いても、「デ・ミストラ氏は、活動中だ。何かあれば情報を共有する」と、庇う報道官の返事が返ってくるだけだった。そのうち、目まぐるしい世界情勢に振り回されて、国連記者室から西サハラ紛争は忘れられてきた。この状況こそ、占領国モロッコと国連事務総長と事務総長報道官の思うつぼだった。多分、デ・ミストラ氏も、、と、疑ってしまう状況が続いていた。 
 
②なぜ、モロッコは今回、モロッコ占領地・西サハラ訪問を許可したのか?: 
 モロッコは「(占領地西)サハラはモロッコ領土だ」と主張し、名称も<モロッコ・サハラ>とか<南モロッコ>と呼んできた。従って、<占領地(植民地)>と西サハラを位置付ける、国連や国際機関のアクセスを拒否してきた。それが突然、国連事務総長特使のモロッコ占領地訪問を受け入れたのだ。 
 9月5日の国連定例記者会見でイタリア人記者のステファノが、「デ・ミストラ氏訪問の 
ほんの数日前 (9月1日)、米国の使節がポリサリオ戦線と会ったことを私たちは知っているんだが?」と、水を向けた。副報道官は。「私が言えることは、デ・ミストラ氏は、様々な関係諸国を巻き込んでいき、西サハラの政治プロセスをより建設的に前進させれるとの見通しているからだと思う。関係者全員との協議をさらに深め。10月に事務総長と安全保障理事会で報告する予定で、楽しみにしている」と、答えた。が、米国の名前は出さなかった。 
 ステファノ記者の言う米国使節とは、ジョシュア・ハリス米国務省中東アフリカ局北アフリカ担当官一行を指す。ハリス北アフリカ担当官は、9月1日にアルジェリアにある西サハラ難民キャンプを訪れ、西サハラ難民や西サハラ難民政府幹部や西サハラ難民大統領と会談を重ね、9月3日にはアルジェリア外務省の事務総長であるルーネス・マグラマネと会談をした。 
 会談後にハリスはアルジェリアの新聞アル・ハバルで、「チンドゥーフを訪れたのは、永続的でまっとうな西サハラの政治的解決を目指し前進することを目的とした国連の政治交渉を支援するという、私の政府(アメリカ)の意向によるものだ。今回が初めての訪問であり、現地の状況を身をもって理解し、ブラヒム・ガリ大統領を含め、国連の政治交渉を前進させることの重要性について会談する機会を作れた。デ・ミストラ氏は、個人特使として、政治交渉を実現するために活動している。安全保障理事会は、米国の支援を受けて、国連規則2654を通じ、国連事務総長個人特使への全面的な支持と緊急交渉の必要性を明確にしている。このビジョンは米国とアルジェリアによって完全に共有されていると信じている。 
 第二の重要な点は、この地域に軍事的エスカレーションがあり、私たちの目標は政治交渉の成功にあり、このエスカレーションは国連和平交渉と矛盾する。国連とデミストゥーラの支持者として、私たちの政府(アメリカ)は、アルジェリアとの非常に強力なパートナーシップを利用して、国連交渉が平和の精神で大幅に前進できる環境を作ろうとしている。容易で迅速な作業ではないことを認識してはいるが、、」と、語った。 
 アメリカはアフリカ最後の植民地・西サハラ紛争の解決レースで、主導権を握ろうと動き出した。一方、モロッコはバイデン現米政権に忖度して、国連特使の訪問を受け入れたようだ。モロッコが散々利用してきた、<トランプ前米政権のモロッコによる西サハラ領有権承認>にほころびが出てきた。 
 
③西サハラ難民政府の声明そしてモロッコ占領地・西サハラでの反占領デモ: 
 9月4日夜、デ・ミストラ西サハラ国連事務総長個人特使は、モロッコ占領軍や制服と私服のモロッコ警察が厳重に配備された、占領首都ラ・ユーン空港に国連機で到着した。しかし、占領軍と警察と諜報員に包囲されたあらゆる通りで、西サハラ市民は占領反対の平和デモを繰り広げた。モロッコ軍はデモの人々を殴打し引きずって逮捕していった。サハラウィ全国人権委員会は諸々の国際人権団体に提訴するために、死者を含む50人を超える犠牲者リストを作成中だ。 
 西サハラ難民政府を指導するポリサリオ戦線は: 
 「西サハラは国連の後援の下で脱植民地化が保留されている領土で、1991年以来西サハラ人民投票のためのMINURSO (ミヌルソ国連西サハラ人民投票監視団) が配備されている。事務総長個人特使のモロッコ占領地・西サハラへの訪問は、領土とその人々、ならびに機能に対する国連の責任と一致する通常の義務作業だ。当該地へのアクセスは自由であるべきで、訪問が最終目的ではない。個人特使はまた、モロッコ占領国の刑務所にいる西サハラ人の政治囚と囚人の状況、彼らが受けている拷問と蛮行、そして彼らが基本的な権利を奪われていることを、直接、目撃すべきだ。 
 ポリサリオ戦線はまた、国連に対し、西サハラの人々、特にモロッコの不法占領下に住む西サハラ民間人に対する国際的、法的、道徳的責任を果たすべきだ。彼らの身体的および道徳的人権保護のために、独立した恒久的な国連組織の設立を含む、必要な措置を講じることを緊急に求める」と、発表した。 
 9月7日の国連定例記者会見で、パレスチナ人記者アブデルハミド氏による「デ・ミストラ氏はラ・ユーンを去った後、今どこにいるか?」との問いに、副報道官は、「:彼が9月6日にダハラに到着したことを知らされている」と答えた。が、「数日前にポリサリオの声明で、上級将校の1人がイスラエル製のモロッコ・ドローンによって国境で他の3人と一緒に殺害されたと述べた。MINURSOミヌルソ(西サハラ国連人民投票監視団) から報告があったか?」との問いに、副報道官は、「報告なし」と、答えた。 
 
 モロッコはダハラやラ・ユーンで、一般の西サハラ人をモロッコ占領軍やモロッコ警察を動員してデ・ミストラ国連特使から遠ざけようとしました。 面会はモロッコ入植者に絞り、特にダハラの新築ビルやリゾート施設の訪問に焦点を当て、<楽園モロッコ占領地>を売り込みました。 
 騙されないでね!デ・ミストラ西サハラ国連事務総長個人特使殿!! 
 西サハラ被占領民の悲痛な訴えを聞いてください。 
 
 
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 「サラー西サハラ難民アスリート」の出版情報です。 
著者:平田伊都子、写真構成:川名生十、画像提供:アマイダン・サラー、SPS、 
定価:本体1,800円+税、 
発行人:松田健二、 
発行所:株式会社 社会評論社、東京都文京区本郷2―3―10、電話:03-3814-3861 
同じ「社会評論社」が出版してくださった「ラストコロニー西サハラ(2015年)」、「アリ 西サハラの難民と被占領民(2020年2月)」にも、お目を通してください。 
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Youtube2018年7月アップの「人民投票」(Referendum)もご案内。 
「人民投票」日本語版 URL :https://youtu.be/Skx5CP3lMLc 
「Referendum」英語版 URL: https://youtu.be/v0awSc25BUU 
Youtubeに2018年4月アップした「ラストコロニー西サハラ」もよろしくお願いします。 
「ラストコロニー西サハラ 日本語版URL:https://youtu.be/yeZvmTh0kGo 
「Last Colony in Africa]  英語版URL:  https://youtu.be/au5p6mxvheo 
 
WSJPO 西サハラ政府・日本代表事務所 所長:川名生十  2023年9月9日 
SJJA(サハラ・ジャパン・ジャーナリスト・アソシエーション)代表:平田伊都子 


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