2023年10月04日10時27分掲載
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欧州
パリのトコジラミとモスクワの『南京虫』(マヤコフスキー作)
トコジラミがフランスで大流行し、国会でその対処をめぐって議論が起きている。トコジラミは別名、南京虫。この名前は、私の世代には〜かつて文学青年だったような人々には〜たぶん、懐かしい響きがあるように思う。ロシアの詩人、マヤコフスキーが書いたSF喜劇『南京虫』は、1980年代までは大きな書店では書棚に置かれていた一冊だったと記憶する。
『ズボンをはいた雲』などの詩集で知られたロシアの天才詩人マヤコフスキーがこの戯曲を書いたのは1928年から1929年にかけてだった。私は『南京虫』のデテールを忘れてしまったので、これをインターネットでかき集めた情報で書いている。・・・デテールは正確かどうか確証はないが、こんなストーリーだったようだ。
第一次大戦と革命時の内戦で落ち込んだ経済を復興させるために一部資本主義を復活したネップ(NEP:1921〜1928)と呼ばれた経済政策の時代。モスクワの一人の若者イヴァン・プリシュキン( Ivan Prisypkin)がエリゼヴィル・ルネサンス(Elzevir Davidovna Renaissance)と結婚式を行う。ところが、プリュシュキンは持ち前の冷笑主義から、結婚式披露宴に集まった仲間とルネサンスを裏切り、自殺未遂を起こす。その時、結婚式を行っていた店が火事になり、消防車が水をかける。
それから50年後ー。時代は理想とされた共産主義が実現して、アルコール中毒も、様々な資本主義の害毒も消滅した世界。そんな時、氷漬けのまま過去の遺跡から偶然、発掘されたイヴァン・プリュシュキンが蘇生する。その際、プリュシュキンの服についていた南京虫もまた蘇生された。理想の共産主義の世界に何か物足りなさを感じる彼は、動物園に入れられて、過去の人類として見世物にされる。
私が戯曲『南京虫』を本で読んだのは1980年代の初頭か中盤だったと思う。まだソ連が存在しており、大きな書店にはソ連の詩人たちの詩集がたくさん置いてあった。アンナ・アフマートヴァ、アンドレイ・ヴォズネセンスキー、ブラート・オクジャワ、マリーナ・ツヴェターエワ、ヨシフ・ブロツキー、セルゲイ・エセーニン、そしてマヤコフスキーなど。当時は私もロシアの詩集を読んだものだった。詩集だけでなく、ソ連の映画もよく見たし、戯曲も読んだものだった。その中には反体制詩人といった人々の作品もあった。おまけに私が学部のゼミでお世話になった刑法の中山研一教授は、ソ連法・ポーランド法の研究者でもあった。私はソ連の悪についてよく書くのだが、一方でロシア文学やロシアの映画に懐かしさを感じる。『南京虫』は1929年2月、メイエルホリドの演出で上演され、音楽はショスタコーヴィッチだった。マヤコフスキーは翌年(1930年)に自殺したので、おそらくはソ連のスターリニズムとうまが合わなかったのではないだろうか。
1922年に病で倒れたレーニンに代わって、スターリンらが政権を掌握し、NEPは1928年で終焉した*。マヤコフスキーがそりが合わなかったのは自由の奪われた世界だろう。マヤコフスキーが『南京虫』を記したのはまさにスターリンがNEPを中止し、最初の五か年計画を立ち上げた「偉大なる転換」と呼ばれる時期だったのだ。研究書によると、この転換の失敗こそが、後にスターリンの大粛清のきっかけとなったとされる。
*スターリンの大粛清
ウィキペディア <粛清の起源は、五カ年計画(1928-1932年)、とくに農業の集団化の失敗のなかにあると指摘される。
パステルナークは「集団化は、間違った、不成功に終わった措置なのに、その過ちを認めるわけにはいかなかった。この失敗を隠すために、あらゆる組織的暴力手段を使って、人々の思考習慣や自主的判断を矯正しなければならなかった。彼らは存在しないものを見たといい、自分の眼が自分に知らせてくれるものと正反対のことを主張するように強制された。「エジョフシチナ」(粛清)の前例のない残酷さ、適用することを目的としていない憲法の発布、選挙の原則に基づかない選挙の導入はここからはじまった」>
これは安倍首相の生存中に、日本のマスメディアの大半が「失敗」と報じることができなかったアベノミクスのケースと通底するように感じられるのが・・・。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E7%B2%9B%E6%B8%85
村上良太
■ロシア構成主義の建築物の場所を示したモスクワ地図 「なぜ私たちはこの地図を今、作ったか?」 デザイナーの一人にインタビュー 'Save the Constructivist buildings in Moscow.'
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201611031229554
■カイロの猫たちの記録( Cat in Cairo " The Beast ") Heather Hermit
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201710171914372
■カイロの猫たちの記録( Cat in Cairo " The Beast ") 美猫コンテスト Heather Hermit
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201802122043351
■カイロの猫たちの記録( Cat in Cairo " The Beast ") 死にかけていた子猫 Heather Hermit
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201802262245341
■カイロの猫たちの記録( Cat in Cairo " The Beast ") 猫の頭の中にあるもの Heather Hermit
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201804262057294
■カイロの猫たちの記録( Cat in Cairo " The Beast ") 子猫ラムセスの不安 Heather Hermit
■カイロの猫たちの記録 ぐっすり眠る猫 Heather Hermit
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201809191514323
■カイロの猫たちの記録 モスクワの雪 Heather Hermit
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201901160529563
■ダッハウ強制収用所の1枚の絵
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201103102255004
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