2023年10月05日16時09分掲載
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検証・メディア
テレビにおける啓蒙と野蛮 〜スポンサー企業の資金力と番組の公平さ〜 少額スポンサーでも番組の制作放映ができる時代へ
インターネットの番組がなかった時代には、あまりにも当たり前なので疑問に思うことは少なかった問題が、スポンサー企業の資金力と番組の公平さの問題だと思う。テレビ番組のスポンサーと言えば、基本的には日本を「代表する」ような世界的に知られた企業が多かった。そして、戦後の昭和時代は右肩上がりだったので、多くの国民が望む暮らしと政治の間に〜イデオロギーの違いはあったとしても〜生活の面では今日ほど大きな亀裂はなかった。しかし、冷戦終結とバブル経済の崩壊後、税制も変わり、庶民の暮らしが厳しくなる一方で富裕層は富を増して、今日の1%対99%みたいな格差を生む社会になった。
今、地上波のニュースのスポンサー企業およびその番組制作の資金力と、インターネットのスポンサー企業あるいは個人の有志による資金力とでは雲泥の差が存在する。その一方で、どう見てもインターネットの番組の方が質が高いものが複数存在している。これは今日、私たちにこれまでのテレビのシステムを維持していてはいけないのではないか、という疑問を提示しているように思う。
地上波のスポンサー企業の多くは経団連*に所属し、政策的に言えば消費税増税を促す方向だと思われる。また、それは自民党支持ということでもあるだろう。個別企業で違いがあったとしても、団体としてはそうである。私は経団連が共産党とかれいわ新撰組を応援しているとは寡聞にして聞いたことがない。自民党は消費増税を進めていく方針である。
一方、インターネット番組を支える人々の多くは消費増税には反対なのではないだろうか。そこは統計がないのでわからないが、番組内容を見ていると視聴者もそうではないかと推測されるのである。つまり、資本力のある企業がマスメディアで影響力を持っているのが今日だと思われる。経団連が、では直接民放のニュース番組の個々の編集に指図しているかと言えば、そうではないだろう。けれども、テレビ局はスポンサー企業の意向を忖度しないかと言えば、決してそんなことはないのではなかろうか。たとえば、れいわ新撰組のSNSを見る限り、一部の局をのぞいて、テレビ報道で無視されることが多いと訴えている。一方、自民党の岸田首相は毎日ニュースでテレビに出てくるだけでなく、地方の農作物や海産物を試食するところまで映し出されている。テレビ報道が批判的検証をしない限り、首相や内閣の動画は宣伝と同じ効果がある。
私個人の経験を言えばある民放のニュース番組の特集を作っていた頃、行政の無駄をシリーズ的に特集したことがあった。その時は与えられたテーマで真剣に取材し報道し、私自身は別段、政治的な意図でそれをやったのではなかった。ところが、そのしばらく後に小泉元首相の郵政民営化を問う総選挙があった。今思えば、構造改革路線の小泉政権を後押しする空気づくりとなったかもしれなかった。テレビ局は、時代のムードを作り上げていくことができると思う。今の時代がどういう時代で、何が必要なのかといった空気をドラマ、ニュース、エンターテインメント様々な番組で打ち出すことができるだろう。ニュース番組に人気タレントが起用されてきたのもその一環だと思う。
このように考えると、スポンサー企業の資金力だけで、公共性や公平性が一段と高く求められるはずの地上波の番組が作られるシステムは、もう限界に来ていると私は思う。その大企業に勤める人々の人口と、中小零細企業の人々の人口を比べると圧倒的に後者が多い。それなのに、スポンサーになれる余裕があるのが大企業だけとなると、公平さの見地から問題が生ずるだろう。大企業が意見を出すのがいけない、というのではない。しかし、それ以外の声が抑圧されるのが問題なのだ。経済が二極分化する今、今のシステムでは、大企業目線の文化・報道になりがちだということである。そして、国会で論じられている法案についても、もっと誰でもわかる言葉で説明する報道番組が必要である。たとえ視聴率が低かろうと、もっと長く時間をかける必要があると思う。説明が乏しければ乏しいほど、大企業側・富裕層側に有利に機能するはずだ。公共性を要件とする地上波なら、国会で行われていることをもっと長時間報じる必要がある。今の時間編成では絶対に不足しているのだ。私は以前、国会パブリックビューイング**の時に書いたことだが、90分くらいかけて説明されて初めて、国会の1つのテーマがようやく全容がつかめた。これはもう今の報道システムではまったく不足しているものである。
その意味で、前回も書いたことなのだが、地上波のテレビ局を1日をたとえば4つの時間帯に分割して、放送局をもっと小口に分けることだ。報道、スポーツ、芸能などジャンルで分けても良かろう。そして、参入企業を増やすとともに、放送局と制作会社の序列を無くす。もっと小規模のテレビ放送局やスポンサーが番組を作れるようになって良いと思う。公共性が担保されるなら、たとえば100人の有志が小口の寄付をして番組を作り、放送するような形もあってよいだろう。ただし、歴史事実を否定するような歴史修正主義やヘイト発言を法律で禁止する制度を設けておく必要があると思う。さらに、テレビに対する視聴者のリテラシーを高めていく努力が不断に津々浦々で行われる必要がある。制作者と視聴者のリテラシーの高さこそが、少額による番組制作を担保するだろう。
さらに一定期間が過ぎると、審査を経てもっと優れたインターネット番組を作っている企業と地上波参入の面での入れ替え、というのがあってもよいだろう。そのためには放送システムなどの一定のインフラは国家や自治体が資金提供しても良いと思う。また報道番組を作るチャンネルは株式公開すべきではなかろう。公共性、公平性とは何かがいつの時代よりも今日、問われているのである。テレビは1日、24時間あるいは20時間、隙間なく埋められている必要もない。何か大きな問題が起こればもっと柔軟にそれを扱うためにも、番組と番組の間に普段から1つ、2つ黒味の時間帯があってもよいだろう。テレビ局が史的システムとしての資本主義であれば、利潤を増やすことが自己目的化し、隙間なく埋めなければ儲けそこなってしまうと考えることになってしまう。しかし、マスコミュニケーションが本来、何のためのシステムかを考えて、そうした営利第一のあり方を改善する必要もあるだろう。そのことはテレビ局員の現在の給料の金額とも関係する。彼らの給与が一般の労働者よりもかなり高いことは、そのスポンサーが資金力のある大企業であることおよび、制作システムにおける序列制度とつながっている。
今、テレビ局はインターネットの台頭と、海外の放送局の進出というグローバル化で大きく変わりつつある。ジャニーズの闇を暴いたBBCのように、外国メディアが忖度なしに日本の問題を世界に報道する時代が訪れた。今後、次々と出てくるだろう、日本のメディアが報道できなかったことが。だからこそ、今、高度経済成長期のモデルのままでいることはできないだろう。特に、格差の拡大を阻止し、社会を活性化するためにも新しいシステムを構築すべき時だと私は思う。予算の規模やスタッフの規模が必ずしも番組の質と比例しないことが明らかになって来た。もちろん、調査報道には予算が必要だが、それはまたそれで考えればよい。
*経団連のウェブサイト
https://www.keidanren.or.jp/profile/pro001.html
「経団連は、日本の代表的な企業1,512社、製造業やサービス業等の主要な業種別全国団体107団体、地方別経済団体47団体などから構成されています」
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■国会パブリックビューイングを見に行く
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201902062355103
■国会パブリックビューイングを見に行く 3 政府統計不正問題 緊急街頭上映(新宿駅西口地下) 2019年2月16日
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