2023年10月14日11時28分掲載
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コラム
反共は「連合」組合員の総意なのだろうか? 〜ドイツ労働戦線(DAF)と産業報国会〜
2021年に日刊ゲンダイ*は連合の芳野会長の野党共闘では共産党とは組めないという反共的言動について、このように書いていた。「立憲が共産党などと一緒に作り上げた『野党共闘』によって、自民党の現職幹事長らを小選挙区で落選に追い込んだのは紛れもない事実であり実績だ。芳野会長はそうした功績も否定しているわけで、『連合と共産党の考えが違う』のであれば、まずは連合組織内で共通認識を得る手続きを踏んだうえで、何がどう異なっているのかをきちんと説明し、違うのであれば両者ですり合わせる努力をするべき。それこそが熟成された民主主義というものだろう」
*日刊ゲンダイ(2021年11月29日)反共発言を繰り返す芳野友子・連合会長は「与党が仕掛けたトロイの木馬」 ネットに呆れる声
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/298054
あれから2年近く経過し、一貫して共産党への排除の姿勢と自民党への親和的姿勢を崩さない芳野会長は、連合会長を連投となった。連合の外部の労働者の目から見た時、反共の姿勢は連合組合員の総意と受け止めるべきなのか?それとも芳野会長の個人的な見解に過ぎないのか?その区別が常に曖昧に感じられる。芳野会長が個人的に共産党が嫌いだとしても彼女の自由である。しかし、連合会長として共産党排除の発言を繰り返し、それが大々的に報道されることは連合組合員の総意という風に受け取られている可能性もあるのだ。では芳野会長は連合で独裁的権限を有し、その発言は常に連合組合員の総意を表わしていると見た方が良いのだろうか、あるいは連合の中で意見を戦わせて決まった総意と考えるべきなのだろうか。それとも、芳野会長の個人的な反共的見解をマスメディアが積極的に拡散しているだけなのか。もしそれが芳野氏の共産党に対する個人的な好き嫌いに過ぎないのなら、なぜマスメディアはそのような一人の人間の見解をことあるごとに報じるのだろうか。
連合の外部にいる労働者たちにこの点が曖昧に感じられる、というところが重要である。全体主義と軍国主義に向かった戦前戦時から、日本では常に政治的責任を曖昧にし、誰一人責任を取らないですむ一億総責任体制でものごとを進めてきた。その結果、戦時中に労働組合はすべてつぶされ、政府統制下の一元的組織〜もはや労働組合とは呼べない組織『産業報国会』へ改組された。政府に迎合的な今の連合は、当時と同じ道を進む可能性もある。芳野会長がアピールしてきた反共的な政治姿勢は、かつて共産党員や社会主義者、反戦主義者を一斉に逮捕投獄してきた治安維持法の歴史すら思い出させる。ドイツでも日本でも、戦時体制に本格的に移行する段階になって労組が解体され、国家の傘下組織にされた歴史がある。それはドイツでは第一次大戦終結時期に労働組合がストライキを行い、第一次大戦を終結させ、革命を起こした歴史があったからだ。連合の会長が反共発言を繰り返し、それが大々的に報道されることは、日本の戦争体制への準備の加速と関係がないと言えるだろうか。
その意味で連合傘下の労組及びその組合員たちは、それぞれが今進んでいるこの時代への責任について明らかにすることが必要となっている。未来の時点から歴史を振り返る時、このことが記録になるだろう。連合の芳野会長の発言が連合の総意であるのか、単にその発言に個的に同調するだけなのか、あるいは芳野会長の発言を個人的見解に過ぎないとし、その政治的発言を越権行為と考えるのか、ということを国民や労働者に示すことである**。
以下は、歴史のメモから。
「ナチスが全権委任法を制定してファシズム体制に移行したのが1933年3月、それからわずか2ヶ月後の5月にナチスが行ったことはドイツのすべての労働組合を解散して、新たに労使一体の産業報国組織である『ドイツ労働戦線』(DAF)を創設したことだった。DAFは労働者が経営者に一方的に服従する組織だったとされる。第一次大戦中のようにストライキを打たれたら、戦争遂行にダメージを受けるからだろう。ということはもう労働者はストライキもデモも打てなくなってしまったのである。
日独伊三国同盟の一国である日本ではというと、『事業一家』という思想のもと、労使一体となって国に奉仕する産業報国会という組織が設立され、加入率は全国民の70%近くに及んだとされる。ドイツでも日本でもファシズムの戦時体制への移行と、労働組合の解体、再組織化が同時に行われた。労使一丸となって戦争に勝つための、総力戦体制になって行ったのである。」
これが単なる化石化した過去でないことは、今日の万博の遅延に対する動向に顕著に表れている。東京新聞の8月3日付の記事***では「2025年の大阪・関西万博で、パビリオンの建設を時間外労働の上限規制の対象外にできないかという動きが出ている。施設整備が遅れている上、24年から上限規制が建設業界にも適用され、人手確保がより難しくなるとの見立てがあるようだ。しかし、上限規制は働き方改革のための重要なルール。国家的なイベントなら、例外にしても許されるというのか」とあるように、産業報国会へ移行するための自民党と維新の観測気球がすでに上げられているのだ。これは労働者にとっては命に関わる重要な問題であろう。安保法制が制定されたのちの現在、この問題はすぐに明日の現実である。歴史をめぐる倫理においては一度目の過ちに比べて、過去の歴史を知りつつその過ちを繰り返す方がはるかに罪が深い。今、連合の各労組の姿勢は、日本の未来を考える上で最も重要な政治的「指標」となっている。
**日刊ゲンダイ「連合・芳野会長の“国葬出席”に批判殺到!『勝手に労働者を代表するな』の声」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/311412
「労働組合の中央組織、連合の芳野友子会長が、27日に予定される安倍晋三元首相の国葬に出席するという。『労働者を代表して弔意を示す』として、15日にも出席の意向を表明すると報じられた。
これにはツイッターで怒りの声が殺到し、『連合会長』がトレンドワード入り」
***東京新聞「万博のためならルールも破る? 時間外労働の上限があるとパビリオン間に合わず 再来年開催なのに、現地は今」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/267433
●産業報国会 1940‐1945
「政府は各府県知事を責任者とする産業報国連合会の結成を命じて促進をはかり,その全国組織として 40年 11月に大日本産業報国会が発足し,産業報国連盟は解散した。当時の政府と軍閥による全体主義的な組織で,これによって従来の労働組合はその姿を完全に消すことになった」「日本の労働組合が独特の企業別組合として成長してきた一因もそこにある」
(ブリタニカ国際大百科事典より)
■真性ファシズムまであっと言う間だった ディディエ・デナンクス著「パパ、どうしてヒトラーに投票したの?」 緊急事態条項で民主国家は5週間で独裁国家に改造できた
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201708040344245
「デナンクス氏は1933年に独裁政権を握ったヒトラーのもと、民主主義からあっという間に独裁国家になったかを描きたかったと語っています。1933年の1月までは世界で最も民主的と言われたワイマール憲法を持つドイツがわずか2〜3か月で世界最悪、史上最悪の独裁国家になったか、このことは瞠目に値すると言っています。ヒトラーが独裁権を確立して5週間で労働組合はストライキを打つこともできなくなりました。5月1日のメーデーのデモを指揮した労組の指導者たちはみな逮捕され、2日後には広場で絞首刑にされたと言います。そればかりか労組は解散して戦争体制を進める国家と財界のもとに統合されてしまうのです。ドイツ労働戦線(DAF)は労組を解体して、ヒトラーと財界のために作られた産業報国組織です。」
■労働争議と共謀罪 フランス二月革命(1848年)以後の労働運動を振り返る 共謀罪は労働争議の防止が目的だった
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201704301049480
■労働組合と安保関連法制 ドイツ労働戦線(DAF)と産業報国会 ドイツでは労組がまず解散させられた
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509061907550
■林健太郎著「ワイマル共和国 ヒトラーを出現させたもの」(中公新書) ヒトラーを頂点に押し上げた大工業資本家たち
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201607081756235
■朝日新聞とは?
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201008240133182
■朝日新聞とは? 2
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201008291040590
■朝日新聞とは? 3
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201009080055493
■政治家の世襲禁止法の制定を 日本は未だ近代以前の身分制社会
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