2023年10月17日06時46分掲載  無料記事
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コラム

今回の戦闘は、イスラエル政府・与党による司法制度骨抜きプロセスの最中の出来事だった

  7月に法案が通ったイスラエル政府による司法制度改革は建国以来最大の民主主義の危機とされ、今年野党を中心に多くの市民が反対デモに繰り出したことは前回書きました。7月の段階では、あまりにも多くの市民の反対があったために、ネタニヤフ首相は野心の道半ばで妥協した法案にしてひとまずは国会を通したとされます。ニューヨークタイムズの9月13日の続報*によると、市民が最も危惧していた2つの部分、すなわち、1,最高裁の判断を国会の多数決でひっくり返せるという部分、および2,イスラエル政府が最高裁判事の任命に当たって大きな影響力を行使できるようにする、というこれらの部分は7月の段階では取り下げられていたとのこと。 
 
  では、7月の段階で可決された司法改革案の問題点として何があったのか、と言えばニューヨークタイムズは次のように書いていました。 
 
「Over 13 hours on Tuesday, the justices heard an appeal filed by groups opposing the law, which ruled that judges can no longer use the legal standard of “reasonableness” to overrule decisions made by government ministers」 
 
 (火曜日、裁判所は可決されたこの法律に反対している市民からの審査請求に13時間以上かけて臨んだ。その法律では、裁判官たちにはもう“reasonableness”という考え方を使って内閣の決定を覆すことができなくなった) 
 
  このリーズナブルネスは、合理性とか妥当性という意味のようです。このリーズナブルネスの概念をこれまで裁判所が駆使して、政府のウェストバンクへの入植計画にストップをかけたり、ウルトラオーソドックスと呼ばれる宗教超保守(あるいは極右)が兵役免除になるような特権を制限する、といったことがあったとのこと。こういうところは、日本から見えにくいところですが、イスラエルと言ってもみんなが政府と同じ考えではないことに注意が必要です。すべての日本人が日本政府の考え方と一致しているわけではないのと同様です。(その意味ではパレスチナと一言でくくるだけでなく、その中の様々なアクターを立体的に見ることも重要です)ですから、イスラエル政府の行為はイスラエルの法制度の中で、反対派とのせめぎあいの中で形成されているものだということを意識すると、イスラエルについて違った角度からの見方も持てるはずです。むしろ、内戦の危機と言ってよいほどに、与党と野党の間で対立が鮮明になっているのが2023年です。 
 
  イスラエルの与党政府は7月の段階で妥協して取り下げていた法案の最も重大な部分をこの秋再び法制化に乗り出す方針であるようです。この残りの部分まで可決してしまうと、ネタニヤフ首相自身の汚職関連の訴追が終了することは間違いなさそうです。というのも、政府が裁判官や最高裁長官の任命に大きな影響力が行使できるようになるからです。 
 
  9月からの1〜2か月の間、イスラエルの最高裁判所は7月に可決した法案を市民の審査請求で審査している最中です。すなわち、イスラエルの建国75年における民主主義の最大の危機の渦中に起きたのが、ハマスらとの戦闘だったことになります。その意味で、今回の戦闘が最高裁の判断に影響するかどうか、イスラエルの司法改革は要注意でしょう。この戦闘がイスラエル国内での政府が進める司法制度改革の目くらましにならないことを祈ります。 
 
*NYT(What’s Next for Israel’s Judicial Overhaul?) 
https://www.nytimes.com/article/israel-judicial-overhaul-vote.html 
 
 
●7月24日のクネセット(イスラエル議会 一院制で総議員は120人)で司法制度改革法案が可決された時の模様(動画)野党が抗議の声を上げている 
(ロイター)Israel's opposition walks out as parliament passes contested law 
https://www.youtube.com/watch?v=wjr_a-44Q2o 
 
 
●BBCによるこの司法制度改革の説明記事「Israel judicial reform explained: What is the crisis about?」(9月11日)この記事内容は基本的にニューヨークタイムズの内容と合致している。 
https://www.bbc.com/news/world-middle-east-65086871 
 
●BBC(Egypt warned Israel days before Hamas struck, US committee chairman says (イスラエルはエジプトからハマスの攻撃があると3日前に警告を受けていた〜米下院外交委員会議長の発言)) 
<Israel was warned by Egypt of potential violence three days before Hamas' deadly cross-border raid, a US congressional panel chairman has said. House of Representatives Foreign Affairs Committee head Michael McCaul told reporters of the alleged warning. 
Israeli PM Benjamin Netanyahu described the reports as "absolutely false". Israeli intelligence services are under scrutiny for their failure to prevent the deadliest attack by Palestinian militants in Israel's 75-year history.> 
https://www.bbc.com/news/world-middle-east-67082047 


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