2023年11月02日13時49分掲載
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アジア
ミャンマーが抱える「ロヒンギャ問題」−迫害や差別を止めるには−〈前編〉 熊澤 新
本年8月25日から、群馬県館林市で写真家、新畑克也さんの写真展「ロヒンギャを知る旅」が開催された。そして、同日夕方には、同写真展会場においてBRAJ(在日ビルマロヒンギャ協会)の記者会見が行われた。ミャンマーにおいて過酷な迫害を受け続けているムスリム少数派ロヒンギャは、日本にも多く在住しており、1990年代からBRAJ(在日ビルマロヒンギャ協会)を結成して活発に活動している。
8月25日は2017年に起こったロヒンギャ大虐殺のきっかけとなった事件の起こった日であり、「ロヒンギャ・ジェノサイド記憶の日」と呼ばれている。2017年8月25日、ミャンマー西部ラカイン(アラカン)州にあるミャンマー国軍の駐屯地がARSA(アラカンロヒンギャ救済軍)と呼ばれる組織に襲撃され、国軍の兵士10名以上が死亡する、という事件が発生。この事件に伴い、ラカイン州北部、マウンドー、ブティダウン、ラディダウンという3つのミョーネ(ミャンマーの行政区域)を中心とした地域の緊張が一気に高まり、国軍は報復として、多くの一般市民(その多くがロヒンギャ)に対して虐殺、暴行、レイプなどの激烈な迫害を加え、多数の民家に放火した。
これにより数カ月の間に70万人以上の、主としてロヒンギャ市民が難民となって隣国のバングラデシュに逃れた。旧軍政時代の迫害によって流出したロヒンギャ難民と合流し、100万人以上が居住する大規模な難民キャンプを形成している。この事件後、バングラデシュに留まるロヒンギャ難民の行く末が注目されたが、2021年にはミャンマー本国において軍事クーデタが起こり、状況は更に混沌としている。
ミャンマー国内のムスリム少数派であるロヒンギャに対する過酷な迫害は比較的よく知られた事実だ。旧軍政時代から多くのロヒンギャが国民としての権利を奪われたまま、主にミャンマー西部のラカイン州に居住していた。彼らに国民としての権利を認めない、という最大の根拠とされるのが、1982年制定の「国籍法」だ。国民としての権利が奪われているため、適正な教育・医療なども受けられず、居住地からの移動制限や強制労働など、過酷な人権侵害に晒されてきた。90年代には2度にわたるバングラデシュへの大規模難民流出も起こっている。2016年〜2021年の民主派政権時代にも払拭するに至らなかった。
その理由の一つは、ロヒンギャに対する根強い差別感情がミャンマー国内に存在した、という点であろう。そしてそのことがロヒンギャ問題の解決をさらに難しくしている、ということは指摘されてきた。率直に言えば在日ミャンマー人、もちろん私が接してきた在日ミャンマー人に限られるわけだが、その中でもロヒンギャに対する「差別感情」が根強くみられた、ということは否定できない。ロヒンギャの人々に対する差別・偏見の根拠とは、どういうものなのだろうか?
簡単に言うならば、ロヒンギャは「ミャンマー固有の民族ではない」という意識に基づく差別、だといえる。「ロヒンギャはミャンマー固有の民族ではない」という意識があるからこそ「ミャンマー国内の各民族協調に基づく国造り」、言い換えれば「ミャンマーの国民意識」から、ロヒンギャが完全に排除されるわけだ。「ミャンマー固有の民族」、「伝統的な民族」というのが、定義として何をさすのか、そもそも「固有の民族」という確固とした概念が存在するのか、という点が私には判然としないのだが、以前からそのように主張するミャンマー人が多かった。
従って、「ミャンマー固有の民族ではないので、ミャンマーに居住する権利はない=ミャンマーから出ていくべきだ」という考え方、あるいは「ミャンマー国内に居住するのは許されるが、国民と同様の権利を保持するのは適当ではない」という考え方、あるいは「一般のミャンマー人と同等の国民として居住してもいいが、ミャンマー固有の民族を名乗るのは許せない」といったバリエーションがある。いずれにせよ、これらの「主張」が、ミャンマー国内におけるロヒンギャへの人権侵害を許容してきた土壌となっている、と考えられる。
こういった背景から、在日ミャンマー人の強い差別意識は続いていた、と思う。そしてそのことは、私たちのように、ミャンマーの民主化活動にある程度関わっている日本人たちに対する対応にも表れていた。
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熊澤 新(くまざわ・あらた)
・「ミャンマー民主化のためのネットワーク」代表
・行政書士(入管・ビザ関係の業務)
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