2023年12月07日09時58分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202312070958314
外国人労働者
外国人労働者の権利が認められる受入制度の創設を 日本労働弁護団が緊急声明
技能実習制度に代わる新制度の創設を目指して議論を重ねてきた「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が、11/24に最終報告書案を取りまとめた。同報告書では、新たに「育成就労」という制度を設けて、本人が転籍(転職)を希望する場合に、1年超の就労と一定の日本語能力試験への合格を条件に、転籍(転職)を認めものとしている。また、経過措置により当面の間は転籍に一年を超える就労期間も設定可能とするように提言している。
このような最終報告書の内容を受けて、日本労働弁護団の佐々木亮幹事長は、12月5日付で緊急声明を公表した。同声明では、上記最終報告書における経過措置について、「本人の意思による転籍が認められるための就労期間を、新制度における就労期間である最大3年まで延長することを認める可能性を残すもので、断じて容認できない」と、問題視している。
以下、同声明の全文を掲載する。
===========================
外国人労働者の権利が保障される受入れ制度の創設を求める緊急声明
2023年12月5日
日本労働弁護団幹事長 佐々木亮
政府は、2022年11月22日、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(以下、「有識者会議」という。)を設置し、技能実習制度を廃止し新たな受入れ制度を創設する方向で検討を進め、本年11月30日、最終報告書を取りまとめた。
当弁護団は有識者会議が中間報告書を公表した際に、技能実習廃止後の新制度において人材育成目的を理由として転籍制限を残すこと、及び、来日する労働者に負担を課すことになる民間の送出し機関を通じた監理団体による団体監理型の受入れ方法を存続させることについて批判をしたところであるが、最終報告書においてもこれらの点については維持されている。当弁護団は、技能実習制度の問題点として、繰り返し、これらの点を批判してきた。すなわち、転籍制限によって技能実習生が職場移転の自由(憲法22条1項)を奪うことを認めてしまっており、そのために技能実習生が特定の使用者の強い支配下において就労せざるを得ず、労働関係諸法令(特に強行法規たる労働基準法)に反する状態で働かされても声を上げられない状態に置かれていること、また、送出しの過程に民間団体が関与することになっているためにそれらの団体が悪質なブローカーとして跋扈してしまい、多額の借金を背負って来日することが常態化していること、そしてこれらのために技能実習生が債務労働に陥ってしまうなど、多くの人権侵害の温床になってきたのである。
特に、転籍(転職)については、最終報告書において、本人が転籍(転職)を希望する場合、同一の受入れ機関において1年を超えて就労している場合において、技能検定試験基礎給及び日本語能力A1相当以上の試験に合格していて、転籍先である受入れ機関が転籍先として適切であると認められる一定の要件を満たせば、転籍(転職)を認めるとしている。このような制度設計は、技能実習制度における無制限の転籍制限から前進するものではあるものの、職場移転の自由をなお制限するもので、当弁護団としては受け入れがたいものである。
さらに問題なのは、最終報告書において、いわゆる経過措置が提案されている点である。すなわち、最終報告書では、今述べた転籍(転職)の要件のうちの就労期間の要件を、「当分の間、受入れ対象分野によっては1年を超える期間を設定することを認めるなど、必要な経過措置を設けることを検討する」としている。このような経過措置は、受入れ対象分野、すなわち業界団体等の意見によって、本人の意思による転籍が認められるための就労期間を、新制度における就労期間である最大3年まで延長することを認める可能性を残すもので、断じて容認できない。また、「当分の間」という記載の在り方も問題である。法律において「当分の間」と記載され将来における改正が見込まれるはずであるにもかかわらず、改正されないままとなってしまっている例は複数ある。たとえば、労働関係諸法令では、労働安全衛生法において、労働者に対してストレスチェックをすることが事業者に義務付けられているが(同法66条の10)、常時使用される労働者が50人未満の事業場においては「当分の間」努力義務とされていて(2014年改正法附則4条)、改正後10年経過しているが、この部分に関する改正の動きはない。また、最終報告書では、このような経過措置を「当分の間」必要とする理由として「従前認められていなかった転籍が認められることによって人材育成への支障や人材流出が生じないかという懸念があり、地方や中小零細企業等への配慮の観点からも、急激な変化を緩和するための措置を検討する必要がある」点に求めていることからすると、制度として経過措置が定められた後も、その経過措置が、来日した労働者をより長く留めておきたい企業の意向を反映した業界団体の要望により長期間にわたって継続することが危惧される。これらのことをふまえると、技能実習制度に替わる新制度において1年を超える就労期間を本人の意思による転籍(転職)の要件とする経過措置を「当分の間」設けてしまうと、最大3年間の転籍制限が恒久化される危険性があるため、このような経過措置を設けることもまた、断じて容認できない。
そして、これに監理団体型の受入れにより来日する労働者が債務負担することを前提とする制度設計が予定されていることをあわせて考えると、結局は技能実習制度に替わる新制度が看板の掛け替えで終わってしまい、技能実習制度において生じた問題が再度生じかねない。
そのほかにも、最終報告書では、技能実習制度に替わる新制度や特定技能1号による在留者には、従来通り家族帯同を認めないこととしているなど、当弁護団が指摘してきた問題が解決されておらず、課題が多い。
人手不足はあらゆる分野において、深刻さを増している。しかしながら、来日する労働者の権利を制度において制約するものであっては、海外から日本に働きに来ることが選択すらされなくなってしまうだろう。
改めて、当弁護団は、技能実習制度に替わる新制度において、転籍制限を設けず、また、監理団体型の受入れ方法を撤廃し、真の意味で技能実習制度を廃止して外国人労働者の権利が保障される、新しい受入れ制度を創設することを求める。
以上
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。