2023年12月18日14時33分掲載
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核・原子力
「核のごみ」文献調査で住民分断の現状
原発で使われた核燃料から出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の最終処分場をめぐり、文献調査が進められている地域では住民の間で精神的な分断が起きている。
文献調査とは、「核のごみ」の最終処分地を選定する最初のプロセスで、対象地域の処分地としての適性を精査するため、地質などに関する文献データを調査するものである。市町村からの応募や、国からの申し入れを市町村が受け入れた場合に調査が始まる。なお、調査は、文献調査、概要調査、精密調査の順に行われるが、日本では概要調査や精密調査に進んだ事例はない。
今年に入ってから文献調査を受け入れる動きが顕在化していた長崎県対馬市では、9月、比田勝尚喜市長が、「文献調査の受け入れの是非をめぐって住民の分断が起きている」などと発言し、文献調査を受け入れないことを表明した。
日本では現在、北海道の寿都町及び神恵内村で文献調査が進められている。12月14日に開催されたオンラインセミナー「核ごみのゆくえ 文献調査と地域の苦悩」(主催:国際環境NGO「FoE Japan」)において、原子力資料情報室の高野聡氏は、政府が推進する核燃料サイクルが既に破綻の状態にあることを指摘しつつ、文献調査が開始されている寿都町においては、賛成と反対をめぐって住民が分断されている現状を報告した。
これまでに寿都町の住民と交流を重ねてきた高野氏が報告した事例には、◯賛成派と反対派で分かれる「核のごみ」の話題を避けるため、挨拶などの日常的な会話もなくなっている◯親しい人と賛否をめぐり口論になって1年間以上口を利かなくなった◯賛成派と反対派がお互いが経営する店舗に行かなくなる。などといったことが挙げられた。
この他、文献調査を応募した賛成派の町長は、伝統的なお祭りが行われる際に反対派の住民が仕切る地区に参加しなかったり、川の氾濫で避難した反対派の住民に対して見舞いに行かないなど、反対派と距離を置く事態も起きていることを報告。寿都町は決して大きな町ではなく、同町の住人らは「非常に息苦しくなってしまった」と、文献調査を受けてからの現状を嘆いていると指摘した。
核燃料サイクルを実現するには、青森県六ヶ所村にある再処理工場の稼働が前提となるが、トラブル続きで稼働は延期されている(※)。また、再処理で取り出したプルトニウムを再利用して作った燃料「MOX燃料」は、高速増殖原子炉「もんじゅ」で使われる予定であったが、それも技術的な問題から開発は進まずに2016年に廃炉が決定された。
こうした現状にはある中で、政府は今もなお核燃料サイクルを前提とし、その過程で生じる「核のごみ」の最終処分場を選定するために文献調査を進めている。調査対象になっている地域では高野氏が指摘したように、住民の分断が起きており、精神的な苦痛を受けている者もいる。政府は、実現の見通しの立たない計画を推進するのではなく、住民が今受けている苦悩に目を向けるべきであろう。
(※)六ヶ所再処理工場は1993年に建設開始し当初は1997年竣工予定。その後のトラブル続きで2022年9月に26回目の稼働延期。
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