2024年01月23日12時32分掲載
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アジア
スーチー氏復権の可能性も ミャンマー最前線からのレポート(3) DM生
このところ建国記念日の恩赦で一万人余の囚人が社会に戻った。また民主化運動指導者アウンサンスーチー国家顧問を刑務所独房から政府関連施設の「住宅軟禁」に移したりもしている(2023.7)。軍政はこうして小出しに反国軍勢力の反応をうかがってきたのだが、ミンアウンフライン総司令官の強気の発言や希望的観測に反して、国軍は坂を転げ落ちるように窮地に陥っており、軍幹部の間にも「ここまで来たら、スーチー女史の復権しか打開の道はないのではないか」という声さえ出てきている。
▽カギを握る中国の出方
実はこれは全く不可能なこととは言えなくなっていると筆者はみている。ミャンマー国内の政治、軍事、経済の環境は、その道をさぐっていくしか国の将来はおぼつかない段階にきていると思える。それを可能にするかどうかの大きなカギを握っているのは国内的には各反国軍勢力の相互理解、自制、共闘体制が進むかどうかであり、国際的には一番に中国の出方であろう。日本政府には遺憾ながらその役割はほとんど期待できない。国軍クーデターは日本外交の決定的失敗を明るみにしてしまったのだ。
結論から先に言えば、中国にとって2016─2021 年のスーチー政権時が最も良好な環境であった。中国の基本姿勢は台湾問題を除けば、経済第一、経済最優先である。そのためには国民の圧倒的支持をうけたスーチー安定政権と良好な関係を築きながら、その一方で国軍との太いパイプを握る。これが中国のもっとも望ましい姿である。
民政移管で経済開放を進めたテインセン大統領 (2011─2016年) は、自国の利益を損ないかねないとの理由で中国プロジェクトの巨大ダム・ミッソンダムの建設を中止させた。また石油港とパイプラインの稼働を大幅に制限した。国産の天然ガス輸送は許可しても、中東アフリカ産の石油に関しては「手数料」しか入らないからと中国の要求に応じなかった。中国の「一帯一路」戦略を受け入れ、「中国との歴史的協力関係を重視」する方針に転換したのはスーチー政権であった。
国軍クーデター前の王毅外交部長とミンアウンフライン国軍司令官との会談 (2021.1.12)について興味深い証言をきいた。
首都ネピドーでおこなわれたこの会談で、軍司令官はNLDが圧勝した選挙結果について「不正があった」と強調した。だが王毅部長は黙って聴くだけで同意しなかった。会談が終わり部長一行が引き揚げていくと、司令官は単独で後を追い「もうちょっと話させてくれ」と引き止めた。そのあと非公式の二人だけの話し合いがあり、そこで司令官は「この選挙不正は受け容れがたいのだ」と何度も言った。その必死の様子から中国側は「クーデターありうる」と判断した。(警備にあたった軍幹部の証言)
筆者はラカイン州の中国石油タンカー港と石油・天然ガスパイプライン(雲南省までミャンマー国内793km)を調査したことがある。その石油タンカー入港記録、石油積載量などのデータを分析していくと興味深い事実が浮かび上がってくる。
中国はミャンマー総選挙の結果発表後50日間(2020.11.17―21.1.6)、 石油タンカーの入港を止め、王毅部長訪問に合わせ2隻だけ(計60万トン)入港させ、司令官との会談後再度30日間寄港させなかった。ここから言えるのは、中国はいかに政情安定を期待しているかである。
▽中国がミンアウンフラインを見限る日
「一帯一路」の重要な柱でもあり習近平の威信にかかわるこの石油パイプラインプロジェクトを進めるには、少数民族地帯の軍事的、政治的安定が不可欠である。アラカン族のラカイン州から始まりシャン州から雲南省に抜けるからだ。クーデター後ややあって国軍は石油港とパイプラインの警備強化を中国に約束した。だが現在の国軍にその力はもはや無い。国軍が担保できなくなれば中国が軸足を少数民族武装勢力側に移しても不思議はない。
2023.10.27の少数民族武装勢力による国軍拠点攻略は中国国境沿いと北部ミャンマーの力関係に大きな転換をもたらした。これは中国が軸足を換えたことの実例であるが、それ以上に深い要因がありそうだ。
これも軍中枢のミンアウンフラインに批判的な幹部たちからの情報である。
中国・ミャンマー国境に沿う地域には麻薬(ヘロイン)と薬物(覚せい剤)製造拠点があり、オンライン詐欺、不法なインターネットギャンブルの国際センターがある。その収益は膨大な額になるが中国人の被害者も数十万に及んでいるとみられている。習近平政権にとっても取締りの対象となった。しかもその不法地帯をミャンマー国軍が支えている。財政難に陥った国軍はその不法巨大ビジネスに深入りする。
中国の監視の目が厳しくなるにつれ国軍はロシア接近をつよめ、戦闘機や石油などの支払いに不法ビジネスからの収益を当てている。そのように見た中国はミンアウンフラインを見限るに違いないというのだ。
またEVや携帯電話の電池に必要なレアアースは中国が世界一の生産量を誇るが、それでも足りない。数年前に発見されたミャンマー内のレアアース鉱物資源はカチン州に集中している。
政治的安定には程遠く、中国の権益、国益保証もおぼつかないとなったら中国はミンアウンフラインを見放すだろうという見方は、いま軍幹部のあいだでさえひろがりつつある。
(つづく)
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