2024年02月03日01時24分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202402030124086

核・原子力

原子力災害対策指針に実効性なし 市民団体が要請書提出

 石川県能登地方を震源(マグニチュード7.6)とする能登半島地震が発生してから1ヶ月が経過した。地震の被害は甚大であり、未だ復旧の目処は立っていない。 
 
 こうした地震災害が起こる度に懸念されるのが原子力災害である。最大震度7を観測した志賀町の志賀原子力発電所では、変圧器が油漏れを起こして外部電源の一部が使えなくなるなどのトラブルが相次いだ。北陸電力は「安全性は確保されている」と発表しているが、地震発生後から幾度となく状況報告を訂正していることからも、鵜呑みにはできない。 
 
 原子力災害が発生した際の原子力施設周辺の住民などに対する防護措置として、原子力規制委員会が定める原子力災害対策指針(以下、指針)がある。各自治体はこの指針を基に原子力防災計画を策定することになるが、能登半島地震の被害状況を踏まえて、「指針には実効性がなく再検証するべき」と指摘する声が高まっている。 
 
 国際環境NGO 「FoE Japan」(以下、FoE)及び「原子力規制を監視する市民の会」(以下、「市民の会」)は、1月31日、参議院議員会館において要請書提出集会を開催した。その中で、FoE事務局長の満田夏花さんは、「指針では、UPZ(原発から5〜30km圏内)の住民は放射線量が一定量に上昇するまでは屋内退避としている。しかし、実際には多くの家屋が倒壊し、屋内退避は無理。また、能登半島地震では各地で道路が寸断されて通信も遮断された。避難指示が住民に伝わるのか、伝わったとしても住民が避難できるのか。自治体職員も地震対応だけで手一杯ではないのか」として指針が現実と乖離していることを指摘。また、同時に「避難計画が現実的な内容でない以上、原発を動かすべきではない」と主張した。 
 
 同集会では、反原発団体に所属する中垣たか子さんらが、原子力規制庁及び内閣府原子力防災担当の職員に対して、能登半島地震で露呈した指針の欠陥を示しつつ、全ての原発の稼働停止を求める要請書を提出した。要請書にはFoE及び「市民の会」の呼びかけで1,373人の個人及び161団体が連名。 
 
 中垣さんは「私は石川県に住んでいる。震源が能登半島だと知って志賀原発の状況が心配になった」と地震発生直後の心境を語った。この他、オンラインで参加した石川県珠洲市在住の北野進さんは「石川県では志賀原発に事故が起きたことを想定して原子力防災訓練を行っているが、真剣に地震の被害を想定しておらず、住民を欺くための訓練が繰り返されている」などと指摘。 
 
 こうした市民の声に対して原子力規制庁は「原発の稼働停止について意見する立場になく、災害時は原子力災害よりも先に自然災害に対する避難を優先する」として能登半島地震を踏まえた指針の変更は行わないと返答。また、「原子力災害時に被曝ゼロは想定していない」との発言があり、参加者から非難の声が上がった。規制庁の返答に対して「市民の会」代表の阪上武さんは「自然災害に対する避難を優先することは指針を変更しない理由にはならない」などと強く非難した。 
 
 現在、被災地では復旧作業が進められている。自治体も災害ボランティアの募集を開始しており、全国各地から支援活動に参加する人々が被災地に集まっている。しかし、万が一、能登半島地震の影響で原子力災害が発生していた場合、支援活動が今のように進められていたとは思えない。 
 
 地震と原子力事故は切り離せるものではなく、複合災害になり得る可能性が極めて高い。政府は原発推進政策を進めているが、その前に市民が納得できるような明確な指針を示すことが先決ではないか。今後の政府の動きが注目される。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。