2024年04月20日10時51分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202404201051316

アジア

国軍の中枢に対立と暗闘が起きている ミャンマー最前線からのレポート(8)DM生

 元米国CIA長官の回顧録によると、訪朝し金日恩総書記と会談した際、こうしたやりとりがあったという。「あなたが私を殺そうとしたことは知っている」総書記がそう言うと、元長官は答えた「今もそうだよ」。これは米朝間の半分本音、半分冗談の外交闘争と交渉の一コマである。だが、実はミャンマー国軍の中枢幹部のなかでも似たように話がでている。 
 
 国軍総司令官と序列第二位の間に極めて緊張した関係が生じている。ミンアウンフラインは全権限を握ってはいるが過半の国軍幹部の支持を失ってきており、ソーウィンに全権を譲るべきだとの声が高まっている。今年1月中旬には強烈な国粋主義仏教徒組織のリーダーが公然と「ミンアウンフラインは退陣しソーウィンが掌握すべきだ」と訴えた(最前線からのレポート4で紹介)。これは強力なバックがそのように言わせているのは明らかである。そのリーダーはミンアウンフラインの有力な支持者と見られていただけにすぐさま拘束されたが数時間もしないで釈放されてしまった。 
 それ以降ソーウィンを押し立てようとする動きは拡大し現在最高司令部は二分し機能マヒを起こし始めた。この亀裂はいつでも深刻な事件を引き起こしかねない暗闘が開始されたのである。 
 この二人が直談判する機会があった。「私の座を譲れというのか」トップがそう言うと、ソーウィンは言い返した。「いや、移譲ではない、奪い取るのだ」 
 こういうやりとりがあったという口コミが国軍幹部の間でひろまり始めた。 
 
 最近反軍民主武装勢力によるドローンを使用した国軍拠点への攻撃があった。4月4日、上空に妨害電波が張られている筈の首都ネピドーで軍拠点と空軍基地がドローン攻撃に会った。ミンアウンフラインの邸宅も空爆の対象になった。「慌てて裸足、寝間着姿でミンアウンフライン夫婦は逃げ出した」「しばらくネピドーに帰らずマグウエイ管区に身を寄せた」。次いで8、9の両日南部のモン州の軍事施設でドローン攻撃があり、丁度出張中だったソーウィンを狙ったものであるとみられた。 
 この連続する空爆に関しても、次のような「解説」が軍幹部の間で広まっている。裸足で逃げたミンアウンフラインは、これはソーウィンが糸を引いているのではと疑った。そしてモン州への国軍公務として出張を命じた。ソーウィンは断ろうとした。本来副司令官がわざわざ出かけるような重要な業務ではないと。だがミンアウンフラインはなお最高司令官としての命令だと伝えた。現地でドローン攻撃を受けたソーウィンはトップへの深刻な疑念を深めた。疑心暗鬼の二人は、それぞれ三桁の兵士を特別編成の「護衛隊」を付けて警戒態勢をとるようになった。 
 筆者にはこれらの情報を裏付ける根拠はまだもっていない。だがこうした具体的な描写を含んだ話は「火のない所に煙は立たぬ」だとみる。中枢幹部とその周辺、複数からの情報でありこの話を補強する状況証拠もあるからだ。間違いなく国軍指導部は深刻な亀裂と暗闘を開始している。 
 
 現在欧米のメディア、例えばBBC、AP、AFP、ロイターも現地取材ビザは発給されず、西側でまがりなりにもビザが出ているのは「日本とシンガポールの記者だけ」(3.27建軍記念日を取材した邦人記者)という。日本メディアのローカルスタッフ(国軍情報省から記者証を発給されている)も国軍を刺激する取材は自粛しがちだ。だから上記のような軍内部の対立について等の情報は恐らく入ってこないと思われる。だが、筆者のみるところこの内部矛盾と亀裂は深刻な段階に既に入っており、いずれ外部の目と耳に伝わるだろうと思えるのだ。            (つづく) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。