2024年04月21日10時40分掲載
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アジア
アウンサンスーチー「刑務所からの移送先」はどこか ミャンマー最前線からのレポート(9)DM生
78歳の高齢で獄中にある民主派指導者アウンサンスーチーを国軍が「自宅軟禁」に変えたとのニュースが国際的な関心を呼んでいる。「軍の軟化、懐柔策か」「移送先は不明」「健康状態の悪化か」といった指摘がなされている。国軍は「猛暑からの受刑者を保護する健康配慮の措置」とだけ説明した。だが筆者に入ってくる各種情報を総合すると、どうやら入り組んだ国際政治、軍内の抗争が絡んでいるようなのだ。
国軍幹部らによると、移送先は首都ネピドーの郊外のある邸宅だという。「大臣クラスの公邸」という説もある。何故、いま移送したのか。また「再び刑務所に戻した」との情報も流されている。それはどうしてか。ある幹部は「中国が強く要請したからだ」と言う。「ミンアウンフライン(国軍総司令官)に期限を切って治安確保と政治安定を求めた。いわば最後通牒であり、執行猶予期間を与えたようなものだ」という説を唱える。「中国はミンアウンフラインに見切りをつけた」との情報は昨年後半から国軍内で流布されていた。
ミャンマー国軍は強烈な民族主義にたっている。そのことを中国は熟知しているから「指示命令」はしない。出来ない。だが濠を埋めていく。地政学上ミャンマーに対してそれが出来るのは中国だけである。中国にとって最適な環境だったのはネウィン独裁期やタンシュエ独裁期ではなく、テインセイン政権期でもなく、スーチー政権期であった。まして2021クーデター後は最悪である。
北部の中国国境は貿易ルートも少数民族武装勢力に抑えられた。中国はそれを事実上支持した。「一帯一路」の重要施設「石油港」に近いラカインの国軍海軍基地はAA(アラカンアーミー)が攻略した。中国とAAの間で「石油港と石油天然ガスパイプラインの安全確保」が協議された。着々と少数民族地帯への影響を増やしている。
ミンアウンフラインはこのところ弱腰になっている。「私は選挙を組織し、その結果多数に選ばれた政権に権限を譲る」と公の席で明言し出した。退陣の可能性を独裁者が言い出したら基盤の崩壊は早いものだ。自分の座を「奪取する」人物との抗争と暗闘、軍事的敗退の連続、経済衰退、行政立て直しと難問山積である。全ての権限を手中に収めたからその分重荷を背負うのは当然である。あまりに貪欲に蓄財に走って国軍内でも不評を買い苦境に立った時の逆風は激しい。「軍史上最悪の無能なトップ」と指弾されるなかで最後の「名誉ある撤退」を模索しているのが現在のミンアウンフラインの姿である。
スーチー移送に関しても揺れを生じている。ミンアウンフラインにしたら、獄中のスーチーを民主武装勢力による「首都攻撃」への「抑止力」として取っておきたい。だが軍内幹部の多数は近い将来の国のあり方を考えたら「スーチーの力を借りるしかないのでは」と舵を切りたい。軍内部の亀裂が国際社会、特に中国の姿勢ともからんで、綱引き、揺れがあらわれていると筆者にはみえる。 (つづく)
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