2024年04月26日10時06分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202404261006165

アジア

軍幹部やクローニーが国を脱出する動きも始まった ミャンマー最前線からのレポート(10) DM生

「どれだけ権力と財があってもこのままミンアウンフラインと道連れにされたくない」。国軍の有力幹部や軍とのコネで財をなしたクローニー(政商)のなかで、ミンアウンフライン総司令官の独裁体制に見切りをつけて国外脱出策を具体化する動きが目立ってきた。 
 筆者の知り合いに国軍から依頼を受けて国際的なビジネスを展開している人物がいる。このK氏はいざとなればミンアウンフラインとも会えるし、有力なクローニーとも頻繁に連絡を取り合っている。最近はこれまでになかった類の商談が持ち込まれるようになったという。土地建物の不動産、各種企業の所有権、ルビー翡翠等の鉱山採掘権、木材(主にチーク材)伐採権の売却、破格のコミッション料を条件のブローカー依頼である。 
 金鉱山の所有権、採掘権売却という商談もある。なにせカチン州だけで223か所の金鉱山が登録されている国である(2020 NLD政権鉱山省統計)。クーデター後とりわけ各種鉱山は無政府的な不法採掘、乱掘がひろがり国軍幹部らによる利権強奪があり、少数民族武装勢力との戦闘地域ともなった。 
 昨年10月以降国軍は劣勢となり、現在では中国国境、インド国境、タイ国境のそれぞれの主要貿易ルートが反軍武装勢力の支配下となった。国軍と国軍系企業はいわば「兵糧攻め」にされる状況がでてくるとみられる。 
 一つの指標として、2023年1-9月にタイ国内のコンドミニアムを購入した外国人の国別統計によると、購入戸数では中国、ロシア、アメリカについでミャンマーが4位、平均購入価格はミャンマーがトップ (660万バーツ=2,800万円) に踊り出た(タイ政府系の不動産情報センター)。クーデター以前には全く見られなかった現象である。昨年10月以降は脱出を考えるミャンマー富裕層のタイ・コンドミニアム購買熱がたかまっているに違いない。つまり「沈没しはじめた船からの脱出」が始まったということである。 
 
 現在の軍事独裁政権はこれまでのビルマ/ミャンマー軍政と著しく異なる性質をもっている。それは完全に利権集団化した暴力装置となったという点である。 
 ネウィン独裁政権(1962―1988)は大失敗に終わったけれど「ビルマ式社会主義」という国家計画を掲げていた。対外的には「鎖国政策」「非同盟」、つまり強烈なナショナリズムに立っていた。タンシュエ独裁政権(1992 – 2011)は民主主義とは敵対する軍支配の「法治国家」としての体制を確立しようとした。それが「民政移管へのロードマップ」(2003)であり2008年憲法であった。この二つの独裁政権は、この国を「東南アジアの豊かな国」から「世界最貧国のひとつ」にまで転落させてしまった。だが最後は、国の困窮、国際環境の変化に対応すべく現実的な柔軟路線に舵をきり、テインセイン政権による民主改革に妨害もしくは攻撃をしなかった。 
 そういう意味ではあまりに過酷な犠牲を強いてしまったが、国軍のなかに国のあり方への理性と良心はまだ残っていたのだともいえる。だが、2021年のクーデターは国民の血の代償で得た「国民主権の制度」(半分の成果であったが)をすべて投げ捨ててしまったのだ。私利私欲が突出した「大義名分」無きクーデターである。理念なき支配は利権集団を増長させた。 
 貪欲に手に入れた不動産、自然資源の利権、企業体は持ち出しができない。金塊や財宝も持ち出し困難だ。外国への銀行送金も制限されている。となれば現金(米ドル)に換金しようとの衝動と焦燥にかられる。内戦状態のなかで国軍の劣勢は誰の目にも明らかになっている。これまでに巨万の富を築いてきた新旧の国軍リーダーとクローニーはかつてない選択、すなわち国外退去をいつどのように決めるかを迫られている。 
 クーデターは国と国民の不幸をもたらし「内戦」を引き起こした。「国乱れて忠臣あらわる」とか「国破れて山河あり」というたとえがあるが、ミャンマー国軍に忠臣は出ず、荒廃した山河ばかりが残されるのだろうか。  (つづく) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。