2024年04月28日20時36分掲載  無料記事
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アジア

国軍と核開発疑惑 「日本のヤクザが核物質密輸」の謎 ミャンマー最前線からのレポート(11) DM生

 今年2月22日、米国司法省が「ミャンマーからの核物質を日本のヤクザが密輸しようとした」との衝撃的な発表をおこなった。日米はじめ各国メディアは直ちにそれを伝えかなりの反響を引き起こした。その「ヤクザ幹部」エビサワ・タケシ容疑者 (60)は共謀のタイ人とともに「麻薬および武器密輸等の罪」で既にニューヨークで収監中である。この事件はさまざまな点で謎が多いが、ここ数年のミャンマーの動き、とりわけクーデター後の国軍の混乱と社会不安の一断面を映しているので以下に記してみる。 
 
 追起訴状から重要なポイントをあげると 
(1) エビサワ容疑者は2020年のはじめ頃から、DEA(米国麻薬取締局)の覆面捜査官とその秘密協力者に「ミャンマーからの大量の核物質を売りたい」と持ち掛け、その後数か月断続的に連絡をとりあう。同年7―8月にエビサワ容疑者はトリウム、ウラニウムの放射能数値を計測した写真等を示す。覆面捜査官は「イラン軍将軍」を装った人物(上記の秘密協力者とは別人)を紹介する。 
(2) 同年9月、覆面捜査官は「イラン軍将軍は、エネルギー燃料用のではなく兵器用の核物質でなければ興味ない」と伝える。それに対してエビサワ容疑者は鉱山名をあげて「50MT 
のウラニウムとトリウムを56,850,000米ドルでどうか」と提案する。覆面捜査官は「あくまで核兵器用の核物質が必要なのだ」と言い、エビサワは「プルトニウムを扱う“ライセンス“は持っていない」とこたえる。 
(3) 翌2021年5月、エビサワ容疑者が「顧客から受け取った武器購入リスト」を覆面捜査官にメールで送ってくる。そこには携帯式地対空ミサイル20基、AK銃5000丁、M16自動小銃5,000丁、RPG対戦車砲50門、迫撃砲80門、スナイパー銃20丁とあった。エビサワはこれらの武器購入側の“ボス”の名前と写真を示し、その“部下スタッフ”二名を紹介する。そしてウラニウムと武器の交換を提案してくる。 
(4) 2021年6―7月にかけてエビサワ側は「U308 (八酸化三ウラン)純度80%」と手書きした“イエローパウダー”の写真を示す。そして「イエローパウダーの売り手は武器の買い手と同一だ」と説明する。覆面捜査官側は「イラン軍の将軍は、核物質が本当に核兵器製造用ならばこの取引に大変乗り気だ」と伝える。 
(5) 2021年8月、エビサワ容疑者側はイエローパウダーと題して、U308 : 101.488kg、トリウム232 : 2,412,925kg の入ったドラム缶写真を示す。タイ・ミャンマー国境で”ボス“と部下二名の会議、”ボス“はウラン鉱山はミャンマー領土内に所有していると説明。会議のあとエビサワ、覆面捜査官らが加わりビデオ会議を開き相互確認。 
(6) 2021年9月、グループ電話会議に“イラン軍の将軍”も出席し「そのウラニウムを検査する専門家チームを送りたい」と提案。“ボス”は出席していないが部下が「100kgは用意できている。更に500kgは約一か月で産出できる」 
(7) 翌2022年2月、エビサワ抜きのビデオ会議でウラン供給側は「ボスは2000kgのトリウム232とU308に含まれる100kgのウラニウムを供給できる。イラン側にサンプルを示していい」と話す。 
(8) 同年2月11―12日にプケットでそのサンプルを確認し合って武器と核物質の交換取引について協議。そのあとサンプルをバンコクの倉庫に移す。 
(9) 同年5月12日、タイ当局がその倉庫を捜索に入り核物質サンプルを押収、米国の研究施設で分析しそのサンプルは兵器用プルトニウムであり、分量が十分あれば核兵器が生産できると結論づけた。 
 
 この核物質密輸の罪に関する追起訴を見ても疑問点がいくつも出てくる。 
 第一に、肝心の「核物質サンプル」「イエローケーキ」(粉末にした濃縮ウラン)がどの国のもので、どの組織のものなのかが不明である。 
 追起訴を発表した米司法省の声明にはミャンマーの「反政府武装勢力」からだとなっていて米日メディアはそう伝えているが、その証拠写真にはタイ語表記で「ウラニウム」と記してある。 
 第二に、追起訴状にはエビサワ・タケシ容疑者を「ヤクザの幹部」と断定しているが、本人が大物に見せるためにつかっていた自称「ヤクザの組長」にすぎない。そして追起訴状のなかに、「麻薬密輸の企て」を2019年9月から2022年4月までタイ人のソンポップ・シンガシリ容疑者と行ってきたとあるので、DEAによって2019年から目を付けられていたと思われる。エビサワ容疑者はそれ以降完全にDEAの手のひらで泳がされてきたのである。当然のことながら電話、ビデオ会議ふくめ全て録音録画されていた。 
 第三に、追起訴状にも明記されていないが、エビサワ容疑者がソンポップと共謀して犯した犯罪は麻薬と武器の密輸に関するもので、核物質の密輸計画に加わった“ボス”とその部下にあたる二名は少なくとも米国で拘束されていないとみられる。また何故エビサワ、ソンポップ両名が米国でいつ逮捕されたのかは明記されていない。 
 第四に、2年前にタイ当局がバンコクで核物質サンプルを押収したときにエビサワ・タケシ容疑者は既に米国で逮捕されていた。1年10か月も経って核物質密輸の罪で追起訴されたが不自然さがぬぐえない。 
 
 このように謎多い「核物質密輸未遂事件」を国軍の核開発疑惑を跡付けながら考えてみたい。           (つづく) 
 
 
 
 
 
(1) 2020年7-8月に 


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