2024年05月31日01時01分掲載
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核・原子力
「ALPS処理水の海洋放出反対」市民団体が抜本的対策を求める政府交渉を実施
ALPS処理水の海洋放出が開始されてから9ヶ月が過ぎる。福島第一原発の廃炉作業に伴って発生するALPS処理水には、トリチウムなどの放射性物質が含まれることから、海洋放出については計画段階から、環境汚染や地元に対する風評被害を問題視する声が上がっていた。
政府は、ALPS処理水の海洋放出に対する国際原子力機関IAEAの包括報告書を「国際安全基準に合致していること等を結論付ける」として、海洋放出に踏み切ったが、国内、特に地元である福島県民の理解を得られたとは言いがたい現状である。
こうした中、全労連・全日本民主医療機関連合会などで構成される「原発をなくす全国連絡会」(以下、「全国連絡会」)及び「東日本大震災・原発事故被害の救援・復興めざす福島県共同センターふくしま復興共同センター」(以下、「ふくしま復興共同センター」)は、参議院会館において、ALPS処理水の放出中止と新たな汚染水対策を求める政府交渉を行った。
政府交渉では、「ふくしま復興共同センター」代表委員の野木茂雄氏が、「ALPS処理水」の海洋放出と新たな汚染水の発生を抑える抜本的対策を求める 21,167人分(累計37,512人)の署名を経産省の担当職員に提出。また、ALPS処理水の海洋放出の代替案として、「大型タンクへの移し替え」や「モルタル固化」による陸上保管などを求める申し入れを実施。
これに対して経産省側は「ALPS処理水の海洋放出についてはこれまでに十分に説明会を行なった」「大型タンクの建築期間などを考慮すると陸上保管は現実的ではない」などと答弁。野木氏の「『2051年までには海洋放出が終了する』とされているが、放出が始まっても新たな汚染水が発生している中で、その計画に現実味があるのか」との問いに対しては、明確な言及を避けた。
「ふくしま復興共同センター」代表委員の伊東達也氏は、「政府や東電側による一方的に説明する場を設けるだけではなく、その説明を踏まえた上で、福島県民に対して海洋放出の賛否を問うアンケート調査を行うべき」と指摘。また、政府交渉終了後に行われた院内集会で「全国連絡会」事務局長の岸本啓介氏は、「今年1月に発生した能登半島地震の後に署名の数が急速に増えた。今後も、原発ゼロの声と合わせてALPS処理水の海洋放出問題に決着を付ける運動を展開したい」と決意を語った。
院内集会には、共産党の岩渕友参議院議員が出席し「政府と東電は、想定外の事態を起こさないことを前提にして海洋放出を始めたが、実際には、汚染水の海洋放出を巡って様々なトラブルが起きている。宮城県や岩手県の漁業者からは『海産物の価格が下がった』、『精神的な損害の賠償もしてほしい』という怒りの訴えも聞いている」として、汚染水の海洋放出以外の処理や原発ゼロの実現を訴えた。
政府は、ALPS処理水の海洋放出が開始されると同時に、福島第一原発事故が既に解決したかのように原発回帰政策を進めている。事故処理の目処も立たない中で海洋放出に踏み切ることは、地元住民を置き去りにする決定であったと言わざるを得ない。伊東氏が主張するように、福島県民へのアンケート調査を実施し地元住民の意見に十分に耳を傾け、寄り添った政策を実現することが、政府として取るべき復興支援ではないだろうか。今回の政府交渉を踏まえて、今後の展開に期待したい。
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