2024年06月26日15時08分掲載  無料記事
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欧州

G7終わる。そして、インド人移民の死 チャオ!イタリア通信(サトウノリコ)

 6月13日から15日までの期間で、プーリア州で行われたG7。ウクライナのゼレンスキー大統領やローマ教皇などが参加したりと、それなりの話題はあったが、G7前に行われた欧州議会選挙で極右政党に負けたフランスの話題が、今でも続いている。極右政党は28歳の若い大統領候補者を掲げて、マクロン大統領率いる与党打倒に必死なようだ。 
 
 G7がプーリア州のファザーノ市にある「ボルゴ・イグナシオ」で行われたことにも、市民から批判が集中した。プーリア州はイタリアの中でも経済的に豊かな州と言われている。この「ボルゴ・イグナシオ」は、歌手マドンナがバカンスを過ごしたことでも有名。そんな高級リゾートでG7が行われた。最後の晩餐では、プーリア州の伝統的な音楽と踊りで、各国の首相たちがもてなされた。その晩餐会では、イタリア首相メローニ氏とプーリア州知事ミケーレ・エミリアーノ氏も踊っている映像がYou Tubeでも流され、「どれだけの税金が使われたのか」「民主党のエミリアーノが右派(ファシストの)メローニと一緒に楽しそうに踊ってる・・・信じられない」「彼らは踊って、我々市民は酷い状況で生きてる」などの批判コメントが殺到した。 
 
 ファザーノ市では1000人あまりが参加したG7反対のデモ行進も行われた。主に、ロシア・ウクライナ戦争、ガザ地区へのイスラエル攻撃への反対の意志を示すためだった。YouTubeに批判コメントを書いた人たちとデモに参加した人たちとが、一つとなって今後大きな動きになることを願う。 
 
 また、6月17日には、ローマがあるラツィオ州のラティーナ県でインド人移民サトナム・シン氏が亡くなった。農場で働いている時、ビニール包装機に右腕を切断されてしまったことが原因だ。こうした仕事中の死亡事故のニュースは、男性による女性への暴力事件と同様、イタリアの社会問題として時々話題に上る。2023年には、1485人が仕事中の事故で亡くなった。1日3人から4人の割合で亡くなっているのだ。つい先日も、18歳の若者が工場の機械に巻き込まれて亡くなるというニュースを聞いた。 
 
 ただ、今回のサトナム・シン氏の死亡については、雇い主の非人間的な行動が今までとは違う問題を浮き彫りにさせた。シン氏が仕事中に事故にあった時、雇い主は病院に連れていく代わりに、シン氏を車でシン氏の家の前の道に放置したというのだ。騒ぎを聞いた近所の人が救急車を呼んで、病院に運ばれたが、事故から2時間経っており、出血多量でシン氏は2日後に亡くなった。 
 
 なぜ、雇い主はすぐにシン氏を病院に連れて行かなかったのか。それは、イタリアの大きな社会問題とつながっている。それは、シン氏はこの農場で契約なしで働いていたからだ。イタリアはヨーロッパ大陸の移民窓口と言ってもいいほど、毎日何百人、何千人という移民が海を渡ってやってくる。その移民の中には、イタリア、フランスやドイツなどにいる家族や親戚のもとに行く人もいるが、滞在許可証なしでそのまま違法にヨーロッパに残る人たちもいる。そういう人たちは、契約なしで働くのだ。それが見つかると、雇い主には罰金が課せられる。また、違法滞在の移民たちは、国に送還されるのだ。それがいやで、契約なしで安い賃金で雇い主に言われるがままに働いている移民たち。また、雇い主も何か問題があっても、自分たちに災いが降りかかるのを恐れて、問題を隠蔽する。こういった悪循環が続いている。しかも、農業という過酷労働は若者の労働者が少ない。そのため、移民たちの働く場となっている。 
 
 雇い主がニュース番組のインタビューに答えているのを見たが、彼は全く自分が悪いとは思っていないようだった。機械を使うなと言ったのに、勝手に使ったシン氏が悪いということを言っており、シン氏が死んだのはシン氏自身のせいという感じであった。 
 
 ちなみに、この人物は、マフィアとの関連を疑われてここ5年間警察の捜査対象となっている。移民たちを雇い入れるのもマフィア繋がりなのか、とも思われる。フィレンツェでも、次から次へと中国人系のお店がオープンしているが、こういう状況の裏にはマフィアが関連しているのではないかとも、まことしやかに話されている。また、私の町でも中国人がたくさん住んでいるが、ここ数年インド系の人たちがすごく増えた。数年前、中国系の人たちが逮捕されるという事件があったが、中国系の人たちは、たいてい服飾製造会社を経営している。逮捕された中国人たちも、その例に漏れず会社経営者だった。インド系の移民たちを不法に雇い、低賃金で働かせていたという事件だったのだ。 
 
 シン氏の死亡事件では、こうした社会問題が明るみに出たが、イタリアではすでにこの状況が当たり前のことになってしまっている。何年も続いているこの問題は、右派、左派、どの政権も解決の目途がつかめず、放置状態なのだ。この問題は、イタリアの若者の失業問題や労働環境(低賃金、長時間労働、無契約労働など)問題ともつながっている。 
 
 移民排除を政策にしている現政権は、この問題について雇い主の違法行為取り締まりを強化すると言っているが、それでは農業などの過酷労働の労働者確保はどうするのだろうか。ただただ、取り締まり強化をするだけではなく、イタリア全体の労働問題に対する見通しを持つことが必要なのだろう。 


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