2024年08月14日10時32分掲載  無料記事
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国際

抗議活動を抑圧し、取り締まりと市民監視を強化する欧州各国 アムネスティが警告

 自他ともに認める人権の先進地域欧州で、市民的権利を求める運動がさまざまな手段で抑圧される事態が頻発していると、国際人権団体アムネスティが独自調査をもとに警告している。「欧州各国の抗議活動に対する圧力は今後一層厳しくなり、罰金や禁錮刑、国家による暴力、差別、監視などが頻繁に起こることになる」とアムネスティは述べる。民主主義の基礎である「抗議する権利」の空洞化に他ならない。以下、アムネスティの警告を紹介する。(大野和興) 
 
 欧州全域で抑圧的法律、武力による弾圧、恣意的な逮捕や起訴、抗議活動の不当な制限、監視などが多発し、抗議する権利が後退する事態に陥っていることがアムネスティの調査で明らかになった。平和的に抗議する人びとが中傷を受け、活動を妨害され、不当な処罰を受けている。 
 
 歴史的にみると、抗議活動は現在の私たちが当たり前のように享受する権利と自由を獲得する上で極めて重要な役割を果たしてきた。しかし今、欧州全土で不当な慣行や監視技術の利用、抑圧的な法律・政策が抗議活動や抗議参加者に深刻な脅威となっている。 
 
◆過剰な武力行使、最新技術の監視体制 
 
 当局はデモ参加者に対して殺傷能力の低い武器とはいえ過剰な武力を行使している。治安部隊の暴力を受けて骨折や歯の破損(フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア)、手の損失(フランス)、脱臼、目の損傷、頭部外傷(スペイン)など、時には後遺症の残る大怪我を負った人たちもいた。また、子どもへの過剰な力の行使があったベルギー、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、スロベニア、セルビア、スイスでは、警察の不処罰や説明責任の放棄の事例があった。 
 
 各国は、抗議活動の監視に最新技術や監視機器を広く利用をするようになっている。抗議参加者の追跡と監視、データ収集・分析・保存の技術もその一つだ。いくつかの国では、十分な制限措置を設けないまま法律による監視体制の強化に乗り出し、監視慣行が広く濫用されるおそれがある。 
 
 調査対象の21カ国中11カ国の法執行機関が顔認識技術をすでに利用しており、6カ国が導入する予定だ。デモ参加者を識別するための顔認識技術の使用は集団監視と同じで、どんな保護措置も監視が招く被害を防ぐことはできない。アムネスティは、この種の技術の全面的禁止を求めている。 
 
◆抗議活動を否定 参加者はテロリスト 
 
 アムネスティの今回の調査で、抗議者や抗議活動を否定的に扱うことで抗議を正当なものとみなさない傾向にあることがわかった。当局は、抗議参加者を「テロリスト」「犯罪者」「外国の諜報員」「過激派」などと呼んでいる。この否定的な表現は、抑圧を強化する法律の導入の正当化にしばしば使われてきた。 
 
 影響力のある政治家が抗議する人たちを犯罪者扱いする発言は、パレスチナへの連帯行動の際に際立った。 
 英国では内務大臣が連帯デモを「ヘイトマーチ」、スロベニアでは2023年のデモをめぐり、当局がXのフォロワーに、「デモ参加者がテロリストかもしれないから」と写真撮影を奨励した。 
その他、ドイツ、イタリア、スペイン、トルコの当局は、気候変動活動家をエコテロリストや犯罪者と決めつけ、テロ関連条項や国家安全保障関連の法律を適用する動きがあった。 
 
◆抗議を違法とする法律と処罰 
 
 国際法は市民の集会を尊重し、抗議行動への障害を取り除き、集会の権利への不当な干渉をしないよう求めているが、欧州の国々の政府は、この国際法上の義務をなおざりにしている。 
 
 調査した21カ国は集会の権利を保護する主要な人権条約を批准しているが、その多くは国際的、地域的な規定を国内法に盛り込んでいない。その結果、抑圧的な法案や過剰な制限措置が導入され、抗議行動をめぐる環境がますます厳しくなっている。 
 
 アムネスティの調査によると、各国当局による抗議の全面的制限を強める理由は根拠に乏しい上、反対意見を取り締まる口実として、しばしば「安全保障」や「公序良俗」が使われている。 
 この数カ月間、地域全体でパレスチナ連帯デモの禁止や制限の理由とされた「公序」や「公共の安全」は、合法性や必要性、比例制の原則を遵守していないばかりか、人種的な偏見を生んでいる。 
 
 多くの場合、抗議行動の主催者は計画の事前通知が義務付けられ、違反すると行政罰あるいは刑事罰の対象になる。通知手続きは人びとの権利に対する干渉であり、国際法では容認できない不当な方法でしばしば用いられている。 
 抗議行動の事前通告や許可申請を怠ると、集会は違法扱いされて解散が命じられ、関係者は逮捕や処罰の対象となる。 
 8カ国では、政府庁舎や議会などの公共建築物の周辺や特定の場所での抗議活動は認められていない。4カ国は特定の時間帯の抗議活動を全面的に禁止、数カ国は抗議内容を制限し、これらの規則を守らなければ、行政罰や刑事罰が科される。 
 
◆市民的不服従への制裁 
 
 良心に従って法を犯す市民的不服従は、集会の権利によって保護されているにもかかわらず、国は公共の秩序や国家の安全に対する脅威とみなし、より厳しい手段で対応するようになっている。その手段には、解散、武力の行使、法的な明確さを欠く法律による逮捕、訴追、実刑判決などがある。 
 
◆人々を萎縮させ、弱者差別を助長 
 
 大規模な監視、強引な取り締まり、刑罰を科される危険性は、恐怖心を生み、集会への参加に二の足を踏むことになる。 
この萎縮効果は、人種差別を受け社会から疎外されている人びとに、とりわけ大きな影響を与える。当局から暴力や差別を受ける危険性がすでに高く、抗議活動への制限や参加に対する報復を受けやすいからだ。 
 
 いくつかの国では、抗議活動の主催者や参加者の属性や彼らが掲げる大義が、当局が課す制限に影響を与えている。多くの国では、さまざまな抗議活動や団体、大義について差別的に区別しているようだ。例えば、人種差別を受けたグループ、LGBTI(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、インターセックス)の人びと、移民・難民が組織した抗議活動、あるいはこうした人びとに対する連帯を示す抗議行動に課された制限は、人種やジェンダーに基づく固定概念に基づく推測で正当化されている。 
 そこには制度的な人種差別、同性愛嫌悪、トランスジェンダーの人びとに対する偏見や差別がはっきりと表れている。 
 
 ドイツでは、2022年と2023年にベルリンで予定されていたパレスチナのナクバ(1948年のイスラエル建国でパレスチナ人が残虐な暴力で追放された悲劇)を記念するデモが、警察により「暴力をふるう傾向がある」と決めつけられ、禁止された。ポーランドとトルコではLGBTIの人びとは長年、当局から集会開催で差別的な制限を受けてきた。 
 
 欧州各国の抗議活動に対する圧力は今後一層厳しくなり、罰金や禁錮刑、国家による暴力、差別、監視などが頻繁に起こることになる。しかし、こうした抑圧にもかかわらず、人びとは権利を守るために懸命に闘い、新たな権利を確保するために抗議活動を続けていくだろう。 
 欧州各国政府は、抗議行動への抑圧的対応を見直し、抗議の封殺ではなく、抗議を支援すべきであり、抑圧的な法律は、国際人権義務に沿うように改正されなければならない。 
 
【背景情報】 
今回調査を行った21カ国は次の通り。オーストリア、ベルギー、チェコ、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリ唖、ルクセンブルク、オランダ、ポーランド、ポルトガル、セルビア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国。 
 このプロジェクトは、アムネスティの世界的キャンペーン「プロテクト・ザ・プロテスト」の一環であり、世界中で抗議する権利の保護を目的としている。 
 
(アムネスティ国際ニュース 2024年7月8日) 


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