2024年08月29日20時25分掲載  無料記事
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教育

奈良教育大学附属小学校 強制的な出向人事を巡る裁判が9月に始まる

 今年1月、奈良教育大学附属小学校(以下、附属小)の授業内容の一部が、文科省が告示する教育課程の基準である学習指導要領に沿っていないとする報道がされた。昨年5月、奈良県教育委員会が、附属小の母体である奈良教育大学に対して、「附属小の教育課程に法令違反を含む不適切な事案がある」と指摘し、これを受けて、同大学は附属小の教育課程を調べるために調査委員会を組織していた。上記の報道は、今年1月、同委員会の調査によって教育課程の一部に不適切事項があったことを示す報告書が公表されると同時に大々的に取り上げられたもので、附属小の教育課程が「不適切」「法令違反」などと断定して世間に広められた。しかし、この報道のもととなった教育課程の調査結果やそれに付随する大学側の対応については、教育界や関係者などから多くの批判の声が上がっている。 
 
 8月2日、名古屋大学教育経営学研究室が主催した「2024年度第一回教育経営懇談会」では、「奈良教育大学附属小学校問題で問われている教育課程経営」がテーマとして扱われた。同懇談会で、名古屋造形大学の首藤隆介氏は、教育課程における評価に関して、「教育課程の評価は各学校が行うものであり、各学校で編成する教育課程が、学習指導要領に基づき適正に実施されているかどうかの評価は、何をもって『適正に実施されているか』の判断も含めて、実質的には各学校でしか評価できない」と述べた。これを踏まえて、奈良教育大学が実施した調査の内容に関して、「奈良教育大学が、附属小の教育課程の評価を行うこと自体が、教育条理にも学習指導要領の記載内容にも反する違法的行為である。奈良教育大学が『教育課程の実施状況』を評価できるとしたら、表層的・表面的なことに過ぎず、教育活動の実質的な評価はできない」として、外部(奈良教育大学)の調査で「不適切」などと結論づけることそのものが、極めて「不適切」であるとした。 
 
 今回の件に関連して、奈良教育大学は附属小の教員らに対して戒告や訓告などの処分を言い渡した。また、同大学が公表した報告書では、不適切事項の発生要因の1つとして、「開かれた学校としての運営が不十分であったり公立小学校との相互人事交流が受け入れのみに留まっていた」として閉鎖的な学校運営がなされていたことを指摘した。これに伴い大学側は、大学独自採用の附属小の教員19名全員を順次出向させる方針を打ち出し、今年度に入ってから5人の教員に対する人事が強行された。 
 
 こうした強制的な出向を含めた大学側の対応は、各方面で疑問視されており、これに反発する動きも出ている。附属小の教育実践を守ることに賛同する市民は、「奈良教育大附属小を守る会」(以下、守る会)」を組織し、附属小の教育を守る趣旨の市民集会を開催したほか、出向人事に反対する署名活動を行い、7444筆もの署名を集めた。「守る会」はホームページを開設し、この問題に関する情報発信や附属小関係者への支援を呼びかけている。 
 
 今春に附属小から他校に強制的に出向させられた教員の3名は、大学側が行った無理な人事の強行が附属小にも子どもたちにも教職員にとっても害のあるものとして、同小を所管する奈良国立大学機構を相手取り、出向命令が無効であることの確認を求めて6月に奈良地裁に提訴した。この裁判には、附属小の教員らも組合の中に支援組織を立ち上げ、原告となる3名の教員と共に裁判を戦う意思を示している。裁判を支援する学校関係者は「附属小の教員の多くは、教育課程が不適切などとされた後の対応に追われて精神的にも体力的にも苦しい思いをしており、大学側を相手取った裁判を起こすことに踏み切れないでいた。しかし、来年度以降も出向人事が継続することを考えると、今回、裁判を起こして法的にも抵抗の意思表示をすべきだと考えた」などと、提訴に至った思いを語った。 
 
 また、同関係者は、今回、附属小の教育課程を「不適切」などと断定した一連の報道に関して、「学習指導要領の内容や法的位置付けは難しく、教育研究者でないと理解できないこともある。殆どの人が、教育の中身がどのように決められ、実際どのように行われているかを知らない。そうした状況の下、大学側の発表そのままに附属小の教育課程が『不適切』『法令違反』などと報じられてしまった。こうした報道が世間に広まったことで、附属小の教員だけではなく子どもたちも辛い思いをしてしまった」と述べた。 
 
 この問題は、附属小に対する文科省と奈良県教育委員会の介入疑惑問題として国会質疑でも扱われているほどであり、教育界のみならず、附属小の教育課程を良いものとして受け入れ、子どもを通わせている保護者にとっても注目度の高い問題となっている。出向命令無効確認訴訟は、9月10日に第一回弁論が行われる。裁判の行方に注目したい。 


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