2024年09月12日20時13分掲載  無料記事
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農と食

背景に流通の寡占化、農家の経営難  昨今のコメ不足、繰り返される恐れ 大野和興氏に聞く

  ―早い段階からコメ不足を予測していた。その根拠は何だったのか。 
 「米沢市など山形県の置賜地区を今年5月に回っていた時に、知り合いのコメ農家から『なじみの注文先に送るのが精一杯で、弁当店など新規のお客さんに送る余裕がない』と聞いていた。産直をやっているその地区のコメ農家が皆、同じ状況だった。昨年のコメは量的には問題ない収穫を得ていたが、全体的な品質は劣り、飼料などには使えても日本の食卓に回せる量はもともと少なかった。新米が出回る前の7〜9月にかけてコメ不足に陥るだろうと予測していた」 
 ―日本政府は今回のコメ不足について「(インバウンド観光客など)外国人の需要が高まったため」とか「南海トラフ地震に備えた買い溜め」などと説明しているが、事実なのか。 
 「まったく関係ないとは断言できないが、こじつけの印象の方が強い。もっと日本の農業政策の本質に関わる問題だと思う」 
 ―具体的には。 
 「日本人のコメの消費量は1962年のピーク時には一人当たり年間118キロだったが、現在は50キロほどにまで減っている。コメの国内需要の長年にわたる低下により、政府は年間10万トン規模で現在も減反を進めている。現在の備蓄米は100万トン程度で、国内需要の2カ月分ほどに過ぎない。さらに本屋が減っているようにコメ屋の数が減り、コメの購入先はスーパー中心になった。コメ卸も合併統合で大手しか残っておらず、仲卸はいなくなった。コメの流通が寡占化している。このようなことが今回のコメ不足と何らかの関係があると思える」 
 ―生産者側が抱えている問題は。 
 「コメ農家の経営難も背景にはある。現在、コメの扱いはトマトやキャベツを作るのと変わらず、政府の補助金もない。価格はすべて市場に委ねられている。民主党政権下で、米国やEUの農業政策にならって農民の所得補償制度を導入、政府はコメ農家に対し、10アール当たり1万5000円、1ヘクタール田んぼがあれば150万円になる補助金を出していた。これが安倍政権下でゼロになった。コメ農家に対しては大規模化、効率化を進めることによって生産性を上げて補助金なしでもやっていけるよう促しているが、コメ農家の現実はそれを簡単には進められるものでもない」 
 ―今後の見通しは。 
 「そろそろ新米の収穫が始まる。今年の作況は平年よりやや良いとは言われているが、西日本や東北地方などでは水害もあったため、精米してみるまで新米の品質は分からない。コメ不足の背景には日本の農業や流通をめぐる構造的な問題が根を張っており、来年以降も短期的なコメ不足が繰り返される恐れはある」 
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 おおの・かずおき 日刊ベリタ編集委員。1940年、愛媛県参川村(現・内子町)生まれ。63年に日本農業新聞入社。72年からフリー。著書に「日本の農業を考える」(岩波ジュニア新書)、「百姓の義―ムラを守るムラを超える」(社会評論社)。共著に「農と食の戦後史」(緑風出版)など。 


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