2024年10月30日16時24分掲載
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反戦・平和
強制動員問題「第3者弁済」の受け入れ 被害者の思いは
2018年に韓国大法院(最高裁)は、戦時下における強制動員被害者(韓国人元徴用工)に対する日本企業の損害賠償責任を認める判決を言い渡した。当時の安倍政権はこの判決を国際法に違反するものとし、戦時下における日本の責任は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの姿勢を保ち、被害者に対する謝罪や賠償を行わないまま現在に至っている。
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、大法院が下した判決は対日関係の悪化を招く要因と判断し、2023年、事態の鎮静化を図るために日本企業による被害者への賠償を肩代わりする方針を打ち出した。これは「第3者弁済」であり、政府の傘下にある財団(日帝強制動員被害者支援財団)が寄付金を集めて被害者らに判決金を支払うものである。しかし、この「第3者弁済」は市民によって集められた資金で成り立っており、日本企業は全く拠出していない。そのため、被害者の感情に寄り添ったものとは言えず、日本企業による謝罪及び賠償を求める被害者や遺族の中には、判決金の受け取りを拒否している者もいる。また、こうした政府の対応に対して韓国社会では批判的な声も上がっている現状である。
「民族問題研究所・植民地歴史博物館」対外協力室長の金英丸(キム・ヨンファン)さんは、10月26日に行われた「強制動員被害者の人権と尊厳、そして東アジアの平和」と題したオンライン講演会(主催:高麗博物館)の中で、「『第3者弁済』は、被害者の人権や尊厳に関わる問題を『金銭さえ払えば解決される』という認識のもとに無理やり進められたもので、政府による強い圧力で被害者や遺族に押し付けられた不当な選択である」と指摘。また、「韓国大法院の判決を韓国政府が蔑ろにすることは三権分立にも違反する」として、「第3者弁済」を提案した尹政権の対応を強く批判した。
被害者やその家族及び遺族には、被害者が高齢となっていることで生じる問題や経済的な状況などを含め、各々を取り巻く様々な環境事情がある。このため、「第3者弁済」を受け入れる動きもあり、10月23日、梁錦徳(ヤン・クムドク)さんが「第3者弁済」による判決金の受け取ったことが財団を通じて発表された。同人はこれまで「第三者弁済」を提案した韓国政府を批判してきた者の1人であるが、現在は闘病中で意思表示が困難な状況である。
今回、梁さんや家族はどの様な心境で「第3者弁済」を受け入れたのだろうか。被害者らの訴えがようやく司法(大法院)で認められたにも関わらず、今度は日韓の外交問題が絡んで行政(尹政権)によって判決の履行が阻止されている。梁さんは、こうした状況で押し付けられた「第3者弁済」の受け入れをこれまで拒否していたことからも、今回の決断はとても難しい選択となったのではないか。
戦時下に起きた様々な問題が今もなお被害者や遺族を苦しめている。日韓両政府は、被害者が納得できる形でお互いにこうした問題を解決する道筋を示す必要があり、これは外交上の友好関係を築く上でも不可欠ではないか。今後の両政府の動きが注目される。
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