2024年12月09日16時21分掲載
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欧州
メローニ政権の「アルバニア・モデル」はどこへ行くのか~チャオ!イタリア通信 (サトウノリコ)
11月初め、テレビを見ていたら、ニュース番組でイタリアの軍艦が数名の人を乗せて港に入ってくる映像を見て思わず笑ってしまった。一緒に見ていた夫も、「笑っちゃうね」と苦笑いをしていた。何のニュースかと言えば、イタリア政府がアルバニアの都市シェンジンとグジデルに移民センターを建設し、そこにイタリアから移民たちが移送されてくるというシーンだったのだ。大きな軍艦にたった8名の移民を乗せている場面は、何だか映画のワンシーンかと思わせる、大袈裟なシーン。
緑と左翼同盟のアンジェロ・ボネッリ氏は、「移民一人当たり、36000ユーロかかる旅」と皮肉っている。36000ユーロといったら、今の為替で568万円。その一方では、毎日のように貧弱な船から溢れそうな数の移民たちが地中海を命がけで渡ってくる。そして、命を落とす者たちもいるのに・・・。本当に助けてあげなくてはいけないのは、こういう人たちなはず。
しかも、この移民センターでは、イタリアの警察隊員が300人働いており、その食費、宿泊費用などで年間900万ユーロ、14億2200万円、かかるというのだ。税金が、こんなことに使われていいのだろうか。ここにお金を使うなら、小学校の給食費を値下げしてほしいというのが、私の本音。中学校の教科書代も300ユーロ(約5万円)ぐらいかかるらしいが、義務教育であるなら、それも無料にすべきではないだろうか。これは、昨年1月にイタリアとアルバニアで交わされた議定書に基づいて行われているプロジェクトなのだが、メローニ政府のスキャンダルとなっている。
議定書によると、この二つの移民センターは、一つは入国手続きを目的としており、もう一つは亡命申請の審査と本国送還の可能性を保留するためのものだ。つまり、移民たちを入国させるのか、それとも本国送還させるのかを決定させる間、住まわせておく所だ。ただ、この決定には移民たちの国−例えばバングラデシュからの移民ならバングラデシュ−が政府が決めた「安全な国」のリストに載っているかどうかという判断が必要になる。これは難しい判断となる。国としては安全かもしれないが、移民がいた地域で迫害や暴力、人権侵害などがあった場合、その国が安全と認められない可能性がある。そのために、前述したイタリアからアルバニアに送られた移民たちは、ローマの入国管理局が勾留を一時停止と決めたため、結局イタリアに連れ戻された。「安全な国」とは認められなかったからだ。
本国送還か亡命申請受け入れかの判断も難しい。移民たちはオンラインで弁護人と話しをして交渉できるとしているが、移民法研究協会(Asgi)の会員である弁護士サルバトーレ・ファシーレ氏は、こう話す。
「人々が極度の孤立状態で生活することになるため、信頼できる弁護士を見つけるのは非常に困難であり、国選弁護人は移民法に関する特別な専門知識の保証なしに任命される。たとえ専門弁護士との接触があったとしても、彼らが独自に話を聞いたり、長時間話したり、資料を交換したりする可能性はおそらく拒否されるだろう。弁護権は書面上で保証されている。」
つまり、実際の手続きに関して移民たちが亡命申請を認めてもらえる可能性は極めて低いと言えるだろう。結局、メローニ政権が推し進めようとしている「アルバニア・モデル」は現実として今現在機能していない。空状態の移民センターに多額の税金をつぎ込んでいるだけなのだ。
また、2023年に発令された本国送還命令の26000件のうち、実際に送還されたのはたったの3270件だった。送還させるにも、移民の出身国との協定、移民を運ぶチャーター便など物質的な問題などなどがある。「アルバニア・モデル」には、そこにアルバニアとの協定という問題も出てくる。
こうして見ると、この「アルバニア・モデル」は現実的な政策というよりも、税金の無駄遣い、そして、移民対策に対してメローニ政権の無能ぶりを露呈しただけという印象が否めない。
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