2024年12月10日22時27分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202412102227062
コラム
【山里から�Α杼�挙 西沢江美子
女が初めて選挙権を得た日のことを覚えている世代も少なくなった。6歳の女の子が見たその日のことを話しておきます。
この秋の総選挙、私の選挙区は定員1人に3人立った。大ベテランの自民、新人の共産と立憲民主。選挙カーは自民の遠くからの声を一度聞いただけ。印刷ハガキは3人から来た。一筆した攻めていたのは元自民の人のみ。選挙権を得てから64年、選挙運動もずいぶんしてきたけど、こんなに静かで見えない選挙はこれまでなかった。
隣近所の投票の日の状況を聞いたみた。小高い山の上で、買い物難民地域。ほとんど後期高齢者。一人暮らしの女性が多い。
仲間と手分けして聞いてがびっくり。約50人に聞いてわかったことは、投票した人が8人。投票をしない理由は、「当然当選する人が決まっている」がほとんど。複数意見で、「投票所が遠い」「足が悪くて歩いて行けない」。誰がやっているか知らないという人が23人いた。テレビも見ない、新聞もとっていない。
今回初めて投票に行かなかった人が31人いた。1票を簡単に捨てることができるようになってしまったのか。
私の選挙の原風景は78年前にある。6歳の誕生日、1946年4月10日、群馬県の小さな山村集落でのこと。祖母が作ったきびの赤飯で誕生日を祝ってくれたので、この朝のことは今でも目に浮かぶ。その日は女性の初めて投票権を行使した日だ。
前日から祖父のところに村人がやってきて、「誰に投票したらいいのか」「自由党と社会党はどう違うのか」「字が書けない、読めない俺はどうすべえ」。村長だった祖父は、広報誌を読んであげていた。
（ジャーナリスト）
字が書けない人には、手のひらに筆で名前を書いてあげた。しっかり握っていたら字が見えなくなり、朝また来た人もいた。女たちはおしゃれをして、投票所までの約4キロをみんなでぞろぞろ歩いた。「話しかけないで、名前を忘れてしまうから」という女性たちに母は「この選挙ができるのは市川房枝というすごい女が長い間運動してきた結果なのだから、全国区では市川房枝と書いてね」、と。
戦争のない、明日の食べ物を心配しない、そんな時代が来るために市川さんは女たちに選挙権をと言い続けてきたのだと、母は近所の女衆に語ってきたと私に伝えていた。
投票に行けない病人を戸板に乗せて4人で運んで投票所まで行った
この選挙で、この村は投票率100%を記録した。それから78年、今回の選挙でも投票率約90%。在村の女性に限ると100%という。しかも中身は、自民、立憲、国民、共産、維新、公明、社民、れいわと分散していて、一極に集中していない。自分の頭で考え、投票していることがわかる。
この村のある群馬県は全県5区とも自民一色で投票率も50％を切っている。この不思議な結果をさぐっていくと、何かが見えてきそうだ。
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。