2025年02月02日10時53分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202502021053590
核・原子力
「放射線被ばくの全体像:人類は核と共存できない」 落合栄一郎
現在、気候変動を口実に原発を増やすことを、日本政府をはじめ多くの国で始めている。日本では、原爆投下、第五福竜丸事件、福島原発の過酷な事故などを経験しながら、政府の意向に同調する気配が濃厚のようである。また日本は地震大国であり、原発事故の可能性は非常に高い。しかし、福島事故後の政府の対応、報道機関の原発事故の無視などもあり、原発の根本的問題点が多数の人に理解されていない。
筆者は、こうした問題の全体像を広く知らせるべく「放射線被ばくの全体像:人類は核と共存できない」(明石書店、2022)を出版しました。そのあと書きの部分をここに再現します。以下、この書より引用:
それから、ジャーナリストが真実を学び、多くの市民に真実を知らせる役割を果たしてほしい。そういう、現状ではまだ難しい役割を、影響力のあるジャーナリスト達が、勇気をもって、行わない限り、人類に未来はない。これは日本に限らない。世界中の問題である。
ここまで、書いてきて、驚くべき事実を、渡辺悦司氏から知らされた。それは、シュバイツアーが、すでに次のように述べていたということである。これは、中央公論、1957年7月号に掲載されたもののようである。その一部を引用する。原発問題に触れてはいないが、原爆に伴う放射線(能)の影響について、充分な理解をもち、警告を出しているのである。
「(前略)核爆弾の爆発は目にみえない放射能をもつ微粒子をつくり出す。その一部は急激に減少するが、減衰がきわめて遅いものもある。最も強力な放射性元素は、爆発後十秒間しか存在しない。しかし、この短い時間に周辺数マイル以内にいる多数の人間を殺す威力をもっている。残る元素は、数時間,数週間、数ヶ月あるいは数百年もの長年月の間、絶えず減衰しながらも大気の高層を放射能の雲となって浮いている。(中略)
我々が吸収した放射能は体内に一様に広がっているではない。それは骨、脾臓、肝臓などの特定の箇所に留まる傾向をもっている。(中略)放射能はどのようにして細胞組織を冒すか、それはイオン化、つまり電荷による作用である。細胞が正常な活動を営むに必要な化学過程がこの作用により妨げられるのである。(中略)主として重大な血液疾患を起こす。骨髄内の造血細胞は放射能の害を受けやすい。(中略)われわれは核爆発による放射性元素の発生により現在の危機がさらに増大することは、人類に体する破滅であると考えざるを得なくなっている。(後略)」
人類の多くが、1957年の時点で、シュバイツアーのこの発言に耳を傾けて、真剣に反省していたら、私がこのような書を書く必要はなかったであろう。
もう1人、経済学者として原発の危険性を警告した発言を引用しておく。シューマッハーの“Small is Beautiful” (1973) からである。
「人間が、自然界に加えた変化の中で、もっとも危険で深刻なものは、大規模な原子核分裂である。核分裂の結果、電離放射能が環境汚染の極めて重大な原因となり、人類の生存を脅かすことになった。一般の人たちが原子爆弾のほうに注意を奪われるのはうなづけるが、それが将来2度と使われないという希望はまだ持てる。ところが、いわゆる原子力の平和利用が人類に及ぼす危険のほうが、はるかに大きいかもしれないのである。 今日の経済性最優先のこれ以上明白な例はあるまい。(中略)放射性物質は、いったん造ったが最後、その放射能を減らす手だてがまったくないということである。それにしても、原子炉から出る大量の放射性廃棄物の安全な捨て場所とは、一体どこであろうか。地球上に安全と云える場所はない。(中略)「原子力の平和利用」の。。。危険は、今のところは原子力の利用が統計にも現れないほどの小規模であるとはいえ、我々だけではなく、子々孫々にまで悪影響を及ぼすという点なのである.本格的な動きはこれからのことであるが、その規模たるや人々の想像を超える。」(下線は、筆者)
しかし、放射線(能)の影響を実感できるのは、この書の第1部と第4部で述べた様々な事象(自分や家族のガンの多発、白血病などなど)に自ら巻き込まれていた人のみなのかも知れない。放射能は見えず、臭わず、聞こえず、体感できないので、それが、じわじわと人びとに襲いかかっていても、感知することもできない。その上、人類に健康障害を齎す原因が、あまりにも多くなってきてしまって(”Our Stolen Future”, “Silent Spring”などに象徴されるような)、放射線にまで目がまわらない。
その悪が、人びとの意識に上らないことを良いことに、核の『平和利用』は、人類にとってすばらしいものだという意識が植え付けられてしまった。スリーマイルアイランド、チェルノブイリ,福島などの事故により、核の悪影響が明らかになりつつあるので、その負の影響を徹底的に否定しつづけているのが、国際原子力ムラと称される人びとが行っていることである。―引用終わり。
どうか、放射線の危険性の全体像(拙著)を見て、原発は速やかに廃絶すべきことを声をあげ、多くの人に知らせていただきたい。実はドイツは、原発全てを2024年4月に廃止しました。ウクライナとの戦争を継続するドイツ、ロシアからのエネルギー源の獲得ができなくなって、エネルギー不足になっているようですが。日本では、原発全てが、稼働しなくても、十分にエネルギーは足りているのです。
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。