2025年02月09日14時32分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202502091432000
市民活動
「炭鉱に眠る犠牲者たちを返して」~市民団体による2回目の遺骨調査実施~
戦時下に起きた「長生炭鉱水没事故」で犠牲となった者の遺骨調査が、1月31日から2月2日にかけて、山口県宇部市内に所在する同炭鉱跡地で行われた。同調査を主導する市民団体の「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(以下、「刻む会」)は、水没した炭鉱内に眠る犠牲者の遺骨を遺族に返還するため、昨年10月、クラウドファンディングで集めた資金を活用して82年ぶりに炭鉱の坑口を開けた。その後、同月中に遺骨の収集に向けて炭鉱内の潜水調査を実施しており、今回はそれに続く2回目の調査となったが、遺骨の発見には至らなかった。
1942年2月3日、山口県宇部市の長生炭鉱で起きた水没事故では、183人が生き埋めとなり、そのうちの136人は朝鮮半島出身者であったとされている。戦時下におけるエネルギー資源を確保するため、国策として取り組まれた石炭の採掘作業であるが、水没事故が起きて以降、犠牲者の遺体はそのままで現在も遺骨は水没した坑道内に眠っている。犠牲者の遺族からは、遺骨の回収と返還を求める声も上がっているが、政府は、遺骨の埋没位置が不明であることなどを理由に、現在に至るまで遺骨調査の実施に応じていない。
長生炭鉱は海底炭鉱であり、陸地にある坑口から海底に続く坑道は概ね直線に続いている。今回実施された潜水調査でダイバーの伊佐治佳孝氏は、調査2日目(2月1日)に坑口から約265メートルまで進んだ。3日間の調査を終えた伊佐治氏は「坑口から直線に進むと250メートル付近で構造物が入り組んでおり、265メートル付近では坑道が崩れ落ちている可能性がある」などと述べ、今後の潜水調査については「265メートル付近からその先に進めるかの確認をしながら、炭鉱内の別ルートからの調査も検討する」とした。
遺骨調査と並行して2月1日には、長生炭鉱跡地近くの「追悼ひろば」で「長生炭鉱水没事故83周年犠牲者追悼集会」が行われた。同追悼集会には、日本及び韓国から犠牲者の遺族を含む約400人以上が参加した。
同追悼集会には、韓国から日本の総務省及び警察庁に相当する大韓民国行政安全部・次官補の金敏在(キム・ミンジェ)、国会議員の金俊赫 (キム・ジョンヒョク)らも出席した。来賓の挨拶をした韓国遺族会の楊玄(ヤン・ヒョン)会長は、遺骨返還事業を進める「刻む会」に対して感謝の言葉を述べつつ、「日韓両国がこれからの友好関係を築くためにも、日本政府は遺骨調査に乗り出して遺族のもとに送り返してほしい」と思いを述べた。また、日本からは立憲民主党、共産党、社民党から5人の野党国会議員が出席し、遺骨返還事業の必要性を訴えるとともに遺骨調査に応じない日本政府の対応に疑問を呈した。
立憲民主党で山口県出身の平岡秀夫衆議院議員は「各党が超党派でこの場に来ている。日韓両政府をしっかりと動かして犠牲者の遺骨が故郷に戻れるように取り組んでいきたい」とし、共産党の小池晃参議院議員は「民間の市民団体が資金を集め、自力で坑口を開けて危険な潜水調査まで実施している。政府が何の責任も果たさないのは恥ずかしいことだ」と遺骨調査に動かない政府の対応を指摘した。また、社民党の福島瑞穂参議院議員は「犠牲者の遺骨返還を未来志向、人道主義、現実主義に則って確実に行われるよう超党派で政府を動かしていく」などと、今後の国会での取り組みについて意気込みを述べた。この他、潜水調査が行われた初日(1月31日)には、社民党の大椿裕子参議院議員も現地を訪れて調査の行方を見守った。
今回の潜水調査で伊佐治氏は、調査3日目(2月2日)に坑口から200メートル付近で木製の輪形の板など持ち帰った。これらは石炭の採掘作業が行われていた当時の物で、水没事故が起きてから83年間、183人の犠牲者とともに坑道で眠っていた。「刻む会」の井上洋子共同代表は「炭鉱内に遺骨は必ずある。少しずつでも調査が進めば必ず遺族と犠牲者が対面できる時が来ると思うので、次に向かって前に進みたい」と今後の遺骨調査について話した。また、今年2025年は、戦後80年・日韓国交正常化60年であることを踏まえて、同会の上田慶司事務局長は「与野党や各々の支持政党の垣根を越えて皆で協力し合い、遺骨返還事業を成功させることが友好な日韓関係の構築に繋がる」とした。
次回の遺骨収集に向けた潜水調査は4月1日及び2日に行われる。同調査には伊佐治氏に加えて韓国人ダイバーの2名が参加する予定であり、市民団体によって正に日韓共同の潜水調査が行われようとしている。こうした市民活動を日本政府はどう見ているだろうか。今後の動きに注目したい。
【「刻む会」ホームページ】
https://www.chouseitankou.com/
【「刻む会」クラウドファンディング】
https://for-good.net/project/1001424
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。