2025年03月30日21時29分掲載  無料記事
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アジア

ミャンマー大地震 「3・11」被災地支援のミャンマー人の心の灯をどう受け継ぐか

 ミャンマーの大地震は、2011年の「3・11」東日本大震災で被災地支援に立ち上がった在日ミャンマー人たちの活動を思い出させてくれた。民主化運動の指導者アウンサンスーチーは「日本のみなさまへ」と題する励ましの一文を毎日新聞に寄せた。そのこころ優しい人びとの母国が今、逆の立場に置かれている。しかも全土で軍政打倒をめざす民主派・少数民族組織と国軍の内戦が激化している。私たちにどのような恩返しができるだろうか。(永井浩) 
 東日本大震災の被災地支援活動にボランティアで参加した在日ミャンマー人たちの多くは、祖国の民主化運動に参加して軍政に追われたため日本に逃れてきた若者たちだった。彼、彼女たちは日本で難民認定を受けた者もそうでない者も、慣れぬ異国で低賃金の労働で日々の生活費をやりくりしながら、民主化活動をつづけていたが、その乏しい稼ぎのなかから資金を出しあって東北の被災地に車で何度も生活必需品などを届けた。 
 彼らは地元の人たちに手作りのミャンマー料理もふるまった。初めて口にする異国の味を喜んでくれる被災民の笑顔を見て、ボランティアたちの顔もほころんだ。 
 東京から遠路、宮城県石巻市まで行った理由を、タウンミィンウーは「おなじ人間として困っている人を助けたい想い」、ケーティは「日本人も外国人も関係ない。何かできることをやりたい、と思った」と述べている。 
 アウンサンスーチーは毎日新聞への寄稿で東日本大震災をこう表現している。 
 「大地、水、火、そして大気。世界を形作る四つの要素すべてが一塊になり、日本に大惨事をもたらした。大地はとどろき引き裂かれ、海からは葛飾北斎が描いたようなとてつもない大波が押し寄せ、強震に見舞われた海岸線に容赦なく襲いかかった。そして街をむさぼるような炎。四重苦の最後は、放射性物質を運んだ大気だった」 
 そして、被災した人びとが破壊された家々や街を黙々と再建しようとしている姿を世界の人びとが同情と称賛のまなざしで見つめるなか、彼女は、逆境に打ち勝つのに「最大の力を発揮させるものは人間の精神なのだ」として、シェークスピアの作品を引く。 
 
 逆境が人に与えるものこそ麗しい 
 ガマガエルに似た醜く毒があるが 
 頭の中に貴重な宝石を隠している 
 (『お気に召すまま』より) 
 
「ガマガエルの頭の中の宝石こそ、試練の中で磨き研がれた光沢と輝き、つまり人間の精神なのだ」 
 また「人の心と感情を揺さぶるのが人間の精神ならば、遠く離れた文化の違いを埋めてくれるのも人の精神」と信じる彼女は、東日本大震災の一報を聞いたとき、まず我がことのように日本の被害に心を痛め、私たちにこの苦しみを乗り越えるための力添えになることがあればと考えた。ただ悲しいことに、ビルマには他国へ救援物資を送る余裕がない。 
「でも、私たちは知っている。日本人の強さには剛と柔の両面性があり、逆境に立ち向かう際に見せる強靭な精神力だけでなく、繊細な美意識や詩歌をめでるしなやかを合わせ持つことを。だから、物資の代わりに、詩を寄せ合うことにした。ビルマ人の精神を示そうと」 
 詩を寄せたひとり、彼女が率いる国民民主連盟(NLD)幹部のウー・ウィッティンは、政治犯として約20年間投獄され、79歳の誕生日をまえに2008年9月に釈放された。彼は日本の天災被害とビルマの悪政被害との相似点を迫力ある筆致で表現し、人間社会と自然界がはらむ残忍さと慈悲深さ、辛苦と人情をつづった。 
 またウー・ニェインティンはこう記した。 
 
 夜明けを予感させるもの 
 それは漆黒よりも暗い闇 
 真実は闇の中から現れ 
 ああ世界よ…… 
 勇気を出して手を伸ばし 
 闇の底からはい上がろう 
 
「日本が立ち上がる時、私たちの詩が支えになればと願う」と、スーチーは結んでいる。 
 仏教国ミャンマーの人たちが示してくれた人間的優しさは、他人の苦しみを我が身のもののように感じ、また他人の喜びを我がことのように共に喜ぶ仏教の精神からうまれている。 
 その国の人びとが大地震に加え、内戦、国軍による自国民の無差別殺戮の三重苦にあえいでいる。2016年に政権の座に就いたアウンサンスーチーは、2021年の第二次政権発足の直前にクーデターで全権を掌握した国軍によって逮捕され、いまだに獄中にある。 
 3・11の被災地支援に示されたミャンマー人の心の灯を、私たちがどのように受け継いでいくかが問われている。 


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