2025年03月31日13時44分掲載
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人権/反差別/司法
「人権」と「思いやり」は別物?藤田早苗さんが語る「国際人権」
国際人権法の専門家である英国・エセックス大学人権センターフェローの藤田早苗さんは昨年11月、日本へ一時帰国し、約4ヶ月間、日本の人権状況の問題を伝える講演会を全国各地で開催した。筆者は今回、全国行脚中の藤田さんを取材し、2月下旬に東京都内で開かれた講演会にも同行した。
藤田さんは1999年秋に英国のエセックス大学へ留学し、同大学で法学博士号を取得。現在もフェローとして同大学と関わり続けている。日本の人々にとって“フェロー”という言葉はあまり聞き馴染みがない言葉かもしれないが、フェローという肩書きを得るためには、大学側が設定したいくつもの厳格な基準をクリアしなければならない。フェローが大学での講義を受け持つこともあり、実際、藤田さんは「アジアの人権」について学生たちに講義を行っている。
【そもそも人権って何?誰が義務を負うの?】
さて、「人権とは何か?」と質問されて、その場でパッと答えられる日本人はいったい何人いるだろうか。正直なところ、筆者自身も藤田さんの講演会に参加するまで、人権について深く考える機会はほとんどなかった。藤田さんは講演会の冒頭、“人権の性質”について「人間らしく生きるために不可欠な、食べ物、住居、医療、教育、職業選択の自由など、これらはすべて人権です。私たちは毎日、人権を行使しているんです」とわかりやすく説明した。“人権後進国”と揶揄される日本において、このような説明ができる人は限りなく少ないように思えるが、人権教育が進む他の先進国ではごく当然のこととして受け入れられているのだろう。
では、その人権を実現する義務は一体誰が負っているのか?
藤田さんは「義務の主体は行政、国家、つまり政府です。日本には『人権』と『思いやり』を勘違いしている人たちが多くいるので、義務の主体について理解している人も少ないでしょう。私が拠点とする英国では、子どものうちから人権について考える機会が設けられています。インターネットで『人権』と日本語で検索すると、「思いやり」や「親切」を表現したポスターや作文が出てきたりします。しかし、英語で『Human Rights』と検索しても、日本のような可愛らしい画像はほとんど出てきません」
藤田さんは日本の教育現場にも責任があると指摘する。
「日本の教師たちは、『視覚障害者の方が信号を渡れないときは手を引いて渡らせてあげる、そうした人に優しくする行動こそ人権だ』といったようなことを教えています。もちろん、そうした行動も大事ではあるんですが、それは人権というよりも、思いやりです」
藤田さんはそうした状況において我々が行使できる人権について、次のように説明する。
「横断歩道を渡れない視覚障害者の方たちがより暮らしやすい社会へと変えていくために、我々は音声付きの信号機の導入やバリアフリー化を要求することができます。こうした権利を行使することが人権であり、人権と思いやりは別物なんです」
藤田さんが指摘するように、日本には「人権」と「思いやり」を同じ類のものとして捉えている人が多くいるのではなかろうか。日本も英国に倣い、子どものうちから人権について考える機会を十分に与えるなど、“人権後進国”と揶揄されないために、人権教育をアップデートする必要がある。
【最高裁判決が最後ではない?】
藤田さんは、日本政府が真っ先に導入するべき「制度」と「機関」について、次のように語る。
「多くの日本人は最高裁判決が最後だと認識しているかもしれませんが、実は『個人通報制度』というものを導入すれば、最高裁判決に不服が残る場合、人権条約機関に直接訴え、救済を求めることができるようになります。ただし、日本の人たちが個人通報制度を利用できるようになるためには、日本政府が同制度を定めた『選択議定書』というものを批准する必要があります」
藤田さんはそれと同時に、政府から独立した『国内人権機関』の必要性についても言及する。
「日本政府は長年『法務省に人権擁護機関があるからそれで十分だ』といった説明を繰り返し、国内人権機関の設立に否定的な立場を取り続けています。ところが、世界には118の独立人権機関がすでに存在しています。韓国では過去に市民が極寒の中、国内人権機関の設立を求めるハンストを実施し、その結果、国内人権機関が設立されました。日本も他国に倣い、個人通報制度の確立と、国内人権機関の設置を急ぐ必要があります」
【そうした制度や機関を作る上で、日本の市民は何ができるのか?】
これについて藤田さんは、「個別の運動の枠を超えた市民の連帯が必要になりますが、残念ながらそうした流れにはなっていません。今の市民運動はテーマごとに専門化し過ぎている側面があるので、もっと横断的に運動を進めていく必要があると考えています」と指摘する。
さらに「政治家に対するアプローチも重要です」と藤田さんは語る。
「個人通報制度のための選択議定書の批准や、国内人権機関の設立を実現するためには、まず議員に『それらを選挙公約に入れなければ票を失う』という危機感を持たせるようにしていかなければなりません。国会議員でなくとも、まずは自分の住んでいる地域を代表する地方議員に働きかけるところから始めてみてはいかがでしょうか」と提言する。
【世界から見た“安い国”日本】
藤田さんは毎年、スイス・ジュネーブにある国連本部に赴き、国連関係者に対し日本の人権状況に関する情報提供を行っている。昨年は、6月の人権理事会と、10月の女性差別撤廃条約の審査で計2回ジュネーブを訪れた。10月の対日審査の際、藤田さんは、DV・虐待の問題等に取り組む女性弁護士らの支援に回り、国連からの勧告を勝ち取る手助けをした。藤田さんは「多くの人たちが『国連リテラシー』を身につけるためにサポートすることも私の役割です」と話す。国連へのアプローチを続けるため、藤田さんは今夏もジュネーブを訪れる予定だという。
一方、スイスの物価は、近年の物価高や円安の影響などにより、日本の約3倍とも言われている。そのため、藤田さんはジュネーブに入る際、“茹でたブロッコリー”を英国からわざわざ持参し、現地では自炊生活を送っている。
「欧米諸国での外食は、円安で苦しむ日本人にとって高額な出費となりますが、意外にも、スーパーの食料品は日本の物価とさほど変わらないんです」と藤田さんはいう。
なぜ、外食になると高くつくのか?その原因について藤田さんはこう説明する。
「それは人件費の影響です。英国では人の手が加わると、それが商品の価格に反映される仕組みになっています。つまり、労働者の賃金がしっかりと守られているということです。私たちは消費者でありながら労働者でもあるんです。ところが、日本は欧米諸国とは異なり、労働者の賃上げはほとんど進んでいません。英国では賃上げストライキが相次いだ時期もありましたが、『彼らのストライキ権の行使を尊重したい』といったストライキに賛同する声が英国では多く上がりました。しかし、日本でストライキが実行されれば、『わがままだ』などと非難されて終わりです。今、外国人観光客が日本を訪れている主な理由は、日本が“安い国”だからです。日本はいつまで“安い国”であり続けるのでしょうか」
藤田さんは長いときで約2週間、ジュネーブに滞在することもあり、「皆さまからの援助がなければ、今のような国際人権活動は続けられていません。皆さまからのカンパは私の貴重な原動力になっています」と語る。
【今年5月以降は東日本行脚を予定】
藤田さんは毎年、日本の人たちにも“国際人権の感覚”を掴んでもらうため、日本各地で講演会を行っており、今年は5月から6月と冬期(11月から約3か月)に一時帰国する予定だ。前回の冬期帰国時は西日本を中心に回ったため、5月以降は東日本行脚を予定しているという。少しでも“人権”について関心があるという方がいれば、国際的な感覚を養うためにも、ぜひ藤田さんの講演会に参加してみてはいかがだろうか。
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